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2019/20 FISスキージャンプワールドカップ女子個人第17戦トロンハイム【シーズン総括】

ルンビー3連覇 新型ウイルスの影響によりシーズン終了

2020年3月12日(木)トロンハイム(NOR)HS138/K124

20th World Cup Competition

Cancelled

 


 

新型コロナウイルスの影響により、オスロと同様に無観客試合として開催される予定だった女子RAW AIR最終戦のトロンハイム。
11日(水)の予選はマーレン・ルンビーがトップ。2位にシリエ・オプセット、3位にニカ・クリズナー。

予選リザルト

 

そして12日。
この日は男子の試合に引き続き、19時(日本時間 翌3時)から試技、20時(日本時間 翌4時)から本戦が予定されていた。
しかし、14時(日本時間 22時)過ぎ。
この試合を含む今シーズンの今後の男女全試合を中止し代替試合も行わないことが発表された。

 

こうして、2019/20シーズンは唐突に終わりを迎えてしまった。

 

女子RAW AIRは、11日までの計5ラウンドの結果によりマーレン・ルンビーが2連覇。
そして、シーズン総合タイトルは、前戦リレハンメルまでの結果によりマーレン・ルンビーが史上初の3連覇を果たした。

 

2019/20シーズン総括

とても面白いシーズンだった。
誤解を怖れずに敢えて言えば、女子WCを”初めて”本気で面白いと思ったシーズンだった。

 

これまでの女子WCは、男子と比較して一人の選手に勝利が集中する傾向があった。
下表は、歴代優勝者のシーズン全試合数における勝利数の割合。
参考までに男子の数字も挙げておいたが、昨季、勝ちまくった印象のある小林陵侑でさえ勝率は5割を切る。プレヴツが2015/16にシーズン最多勝利を挙げたときでさえ.517。シュリーリが2008/09に13勝を挙げたときで.481。
対して、女子は明らかに勝率が高い。

 

歴代総合優勝者の全試合数における勝率
2011/12 ヘンドリクソン 9勝/13戦(.692)バーダル 3/26(.115)
2012/13 高梨沙羅 8勝/16戦(.500)シュリーリ 10/27(.370)
2013/14 高梨沙羅 15勝/18戦(.833)ストッフ 6/28(.214)
2014/15 イラシュコ 5勝/13戦(.385)フロイント 9/31(.290)
2015/16 高梨沙羅 14勝/17戦(.824)プレヴツ 15/29(.517)
2016/17 高梨沙羅 9勝/19戦(.474)クラフト 8/26(.307)
2017/18 ルンビー 9勝/15戦(.600)ストッフ 9/22(.409)
2018/19 ルンビー 12勝/24戦(.500)小林陵侑 13/28(.464)
2019/20 ルンビー 5勝/16戦(.313)クラフト 5/27(.185)

 

これまで何度か書いてきたことではあるが、やはり一人の選手が勝利を独占するスポーツは、コンペティションとして魅力的だとは言い難い。
誰が勝つか、誰がタイトルを獲るか。そういったワクワク感にはやや欠けるきらいがあったというのが、これまでの女子WCに対する個人的な評価だ。

 

しかし、今シーズンは違った。
2014/15は総合2位の高梨沙羅が勝利数では上回るが、その勝率が.462(6勝/13戦)。これがこれまでで最も低いシーズン最多勝利者の勝率だった。
今シーズンも総合2位のヘルツルが勝利数では上回るが、その勝率が.375(6勝/16戦)。シーズン最多勝利者の勝率が初めて4割を切った。
ちなみにルンビーの勝率は.313(5勝/16戦)。総合優勝者としては2014/15のイラシュコを下回る史上最も低い勝率だ。

 

また、シーズンの優勝者数も2012/13シーズンと2018/19シーズンの6人に次ぐ5人。
そのうちの3人(ヘルツル、クラマー、ピンケルニッヒ)が初優勝。

 

11/1212/1313/1414/1515/1616/1717/1818/1919/20
4人6人3人4人3人4人4人6人5人

 

これらの数値は一つの指標にすぎない。
それでもやはり、一人が勝利を独占するというこれまでの傾向は弱まり、誰が勝つか、誰がタイトルを獲るかといったワクワク感に溢れるコンペティティブなシーズンだったことを裏付ける数値ではあると思う。

 

ルンビーとヘルツルの争い

コンペティティブなシーズンの中心にいたのはマーレンルンビーとキアラ・ヘルツルだ。
でも個人的により印象深かったのはヘルツル。
今シーズンはヘルツルのシーズンだったように思える。

 

ルンビーが踏切の遅れを最後まで修正切れなかったのに対し、ヘルツルは技術的により洗練されていた。特にスキーと身体の間隔が程よく開いた美しい空中フォームは特筆もの。
クリンゲタールでのWC初優勝をはじめ、ルンビーより1つ多い6勝をマーク。
オーベルストドルフとヒンツェンバッハでは怒涛の4連勝を果たしルンビーを心理的にも追い詰めた。
また、クラマー、ピンケルニッヒの勝利にも心から祝福している様子がうかがえ、チーム全体の好調さも手伝って気分よく戦えている感じがあった。

 

完成度ではヘルツルに後れを取っていたかもしれないが、ルンビーは持ち前のパワーでその差を埋めていた。
勝てない時には割とはっきりと表情に出るルンビー。開幕2連勝以降は思うように勝てない試合が続いたが、その際は心理的にかなりのダメージを受けているようにも見て取れた。
しかし、ヘルツル、クラマー、ピンケルニッヒによって繰り広げられたオーストリアの6連勝を止めたのもルンビーなら、ヘルツルの4連勝を止めたのもルンビーだ。
ライバルたちに完全に主導権を渡さずに、ギリギリの局面で自ら止めてみせたことはとても大きかったと思う。

 

それにしても、ルンビーとヘルツルの争いは拮抗していた。
二人とも全試合でシングル。表彰台は共に12回あるが、ルンビーは2位が多く、勝てない時でも失点を最小限に抑えていた。
また、ルンビーは表彰台以外は5位が4回。対してヘルツルは9位、7位、6位、4位が1回ずつ。これだけで70ptの差。このあたりもルンビーはそつがない。

 

表彰台の回数の比較優勝2位3位
ルンビー5回6回1回
ヘルツル6回2回4回

 

ルンビーは史上初の3連覇。
その偉業には1点の曇りもない。
ただ、もしシーズンが最後まで行われていれば、ルンビーvsヘルツルの歴史に残る一騎打ちが見られたかもしれない。
それだけが、つくづく残念だ。

 

シーズン・データ
ワールドカップ総合順位
1 マーレン・ルンビー(NOR)12205勝
2 キアラ・ヘルツル(AUT)11556勝
3 エバ・ピンケルニッヒ(AUT)10293勝
4 高梨 沙羅(JPN)7851勝
5 カタリナ・アルトハウス(GER)617最高位2位
6 ダニエラ・イラシュコ-シュトルツ(AUT)506最高位3位
7 ニカ・クリズナー(SLO)497最高位3位
8 エマ・クリネッツ(SLO)496最高位2位
9 マリタ・クラマー(AUT)4751勝
10 シリエ・オプセット(NOR)472最高位2位
12 伊藤 有希(JPN)380最高位4位
13 丸山 希(JPN)355最高位6位
18 勢藤 優花(JPN)183最高位9位
34 岩渕 香里(JPN)30最高位20位
47 小林 諭果(JPN)3最高位28位

WC総合

 

ワールドカップ個人戦 大会別優勝者
1リレハンメルLH マーレン・ルンビー(NOR)
2 リレハンメルLH マーレン・ルンビー(NOR)
3 クリンゲンタールLH キアラ・ヘルツル(AUT)
4 札幌LH マリタ・クラマー(AUT)
5 札幌LH エバ・ピンケルニッヒ(AUT)
6 蔵王NH エバ・ピンケルニッヒ(AUT)
7 蔵王NH エバ・ピンケルニッヒ(AUT)
8 ルシュノフNH キアラ・ヘルツル(AUT)
9 ルシュノフNH マーレン・ルンビー(NOR)
10 オーベルストドルフLH キアラ・ヘルツル(AUT)
11 オーベルストドルフLH キアラ・ヘルツル(AUT)
12 ヒンツェンバッハNH キアラ・ヘルツル(AUT)
13 ヒンツェンバッハNH キアラ・ヘルツル(AUT)
14 リュブノNH マーレン・ルンビー(NOR)
  オスロLH Cancelled
15 リレハンメルLH 高梨 沙羅(JPN)
16 リレハンメルLH マーレン・ルンビー(NOR)
  トロンハイムLH Cancelled
  ニジニ・タギルNH Cancelled
  ニジニ・タギルNH Cancelled
  チャイコフスキーNH Cancelled
  チャイコフスキーLH Cancelled

 

RAW AIRトーナメント総合順位
1 マーレン・ルンビー(NOR)944.5
2 シリエ・オプセット(NOR)-44.4
3 エバ・ピンケルニッヒ(AUT)-114.1
4 カタリナ・アルトハウス(GER)-114.3
5 キアラ・ヘルツル(AUT)-116.7
6 高梨 沙羅(JPN)-128.3
12 丸山 希(JPN)-294.6
13 伊藤 有希(JPN)-340.8
15 勢藤 優花(JPN)-380.4

RAW AIR総合

 

団体戦 大会別優勝国
1 蔵王NH オーストリア日本2位
2 リュブノNH オーストリア日本9位

 

ネイションズ・カップ総合順位
1 オーストリア4457
2 ノルウェー2537
3 日本2086
4 ドイツ1889
5 スロベニア1862

国別総合

 

注目の新星

見方を変えると、今シーズンはルンビーvsオーストリア勢だったのかもしれない。
ルンビーの行く手には、常にヘルツル、ピンケルニッヒ、クラマーらオーストリア勢が立ちふさがった。

 

昨季総合6位という成績以上に存在感を発揮したピンケルニッヒは、今季は初優勝を含む3勝を挙げ、存在感に成績が伴ってきた。
また、18歳のクラマーはキャリア9戦目となる今季開幕戦で10位となり注目を集めはしたけど、まさか勝つとは。まぐれ当たりの勝利ではなくコンスタントにシングルを重ね総合9位となったホンモノの逸材。来季が楽しみだ。

 

その他にも注目すべき若い選手たちがいた。
ルンビーの喜び組からの見事な脱却を図った20歳のシリエ・オプセット。
ポーランドの女子育成の本気度が見えた19歳のキンガ・ライダ。
WCデビューが2015年で50戦以上の出場があり若手感があまりない19歳のララ・マルシネル。
オーストリアの隠し玉である18歳のリサ・エダーあたりが面白い。

 

日本チームの闘いと課題

一方、日本勢に新星と呼べる選手はいるだろうか。
21歳の丸山希はWCチームに定着して2シーズン目。
昨季は総合20位。最高位11位。
今季は総合13位。最高位6位。はっきりと成長が数字に表れた。

 

元々大きかったV字の開きがさらに大きくなったように見え、その分スキーが外を向いてしまって揚力がそがれているのではないかということと、フライトの最終盤で身体からスキーが離れるのが少し早く見えてしまうあたりが、素人目に見てどうかと思われるが、逆に言えば伸びしろも大きいと思われる。

 

次なる選手はいるのか?
横川コーチは、オーベルストドルフのインタビューで「隠し玉で出したい選手がいる」と言っていたが誰の事を言っていたのだろう? 正直ちょっと思い浮かぶ選手が見当たらない

 

日本女子チームは、メンバーを固定しすぎているように思う。
高梨、伊藤、岩渕、勢藤の4人は、2014/15から6シーズンにも渡る不動のメンバー。
2018/19に丸山が加わったとはいえ、その間にこの5名以外で海外WCに参戦したのは5名しかいない。

 山田 優梨菜 2014/15…6戦 
 渡瀬 あゆみ 2014/15…1戦 
 松橋 亜希 2014/15…1戦 
 岩佐 明香 2017/18…4戦 2018/19…5戦
 大井 栞 2018/19…3戦 

 

これでは、不動のメンバー以外は経験を積む機会がないし、あまりにも狭き門過ぎて国内組のモチベーションも上がらないのではないか?
シーズン中の総入れ替えなどは愚の骨頂としても、クォーター枠を余らせた試合が今季も何試合かあったので、せめてそういう時に国内の選手をエントリーさせることはできないものか。
お金の問題? いやいや、少なくとも茂野美咲、小林諭果、岩佐明香らは有力企業に所属している。遠征費ぐらい喜んで出すことだろう。

 

もう一つ気になることは、昨季のシーズンレビューでも書いた件。

沙羅も有希も勝つために試行錯誤を繰り返したシーズンだった。
(中略)
いろいろと試している最中なのでこの成績は気にすることは無いという意見もあるようだが、ではライバルたちは何も試行錯誤をしていなかったのか。
おそらくはほぼ全ての選手が何らかの試行錯誤を繰り返しながらシーズンを戦っており、オフシーズンにそれを行うのとは違ってシーズン中は当然に結果が求められる。
沙羅も有希も結果的に最後まで答えが見つからないままシーズンが終わってしまった感があるが、もがき苦しんだこのシーズンが来季につながると信じたい。

2018/19 WC女子個人第24戦チャイコフスキー

 

今季の伊藤有希が試行錯誤を繰り返したかどうかは情報がないのでわかりかねるが、高梨沙羅は昨季同様に試行錯誤をしていることは報道されている通り。
スタートの仕方から、アプローチ姿勢、踏切などすべてを一から見直しており、ルシュノフでは新しいフレックスの板も試した。
本人曰く「完成度は半分くらい」らしく、昨季と同じく1勝を挙げ総合順位も同じく4位だったものの、表彰台は10回から3回に激減してしまった。

 

2シーズンを丸々費やしたけれど完成度は半分。全部完成させるのにあと2シーズン必要というわけではないとしても、明日急に完成するものでもないだろう。
果たしていつ頃の完成を目指しているのか? 来季の世界選手権? それとも北京五輪?
いずれにしても、これではWCは調整の場という位置づけになってしまう。それは選手サイドの考え? それともSAJの考え?
憶測でものを言うのはこのぐらいにしておくが…

 

女子ジャンプ全体のレベルが上がっており、かつてのように勝ちまくることなどできなくなっていることは理解している。沙羅はもともと完成形に近い選手だったので、他の選手ほど伸びしろがないであろうことも理解している。
そもそも一人の選手が勝利を独占する様は望んでいないので、かつてのように勝ちまくって欲しいとはこれっぽっちも思っていない。

 

でも、おそらくはルンビーもヘルツルもピンケルニッヒも、皆、何らかの試行錯誤を繰り返しながらシーズンを戦っているのだと思う。オフシーズンにそれを行うのとは違ってシーズン中は当然に結果が求められる。
来季は「好結果も求められる。やるべきことに集中し、結果が出せるようなシーズンにしたい」と沙羅。本人が一番わかっているらしい。

 

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