2020/21 FISスキージャンプワールドカップ男子個人第25戦プラニツァ【シーズン総括】

ガイガー連勝 シーズンはグランネル圧巻で終了

2021年3月28日(日)プラニツァ(SLO)HS240/K200

30th World Cup Competition

1  カール・ガイガー(GER) 459.3pt
2  小林 陵侑(土屋ホーム) 452.4pt
3  マルクス・アイゼンビヒラー(GER) 447.9pt
 
6  佐藤 幸椰(雪印メグミルク) 435.1pt
22  佐藤 慧一(雪印メグミルク) 380.1pt

オフィシャル リザルト


中止となったRAW AIRの代替戦がプラニツァで1試合だけ開催されることが発表されたのは、3月初旬の世界選手権の真っただ中。
これにより今季の残り試合数(個人3試合・団体1試合)が確定。
そして、その瞬間にグランネルの総合優勝も確定したわけだが、さて。

総合優勝の確定と、世界選手権からプラニツァ大会まで3週間ほど空いてしまったことも重なったせいだろうか。一部の選手には既にどことなく終戦ムードが漂っているようには感じられていた。
ただ、一方ではもちろんガチ勢はいるわけで。
プラニツァ大会の個人戦3試合は、彼らガチ勢が目覚ましい活躍を見せることとなった。

ガイガーは2連勝。プラニツァ初戦でも3位になっており、フライング総合のタイトルを獲得することとなった。
3位のアイゼンビヒラーは、プラニツァ初戦の2位に続く二つの表彰台によりフライング総合で3位となった。

そして、小林陵侑。
1本目でHSオーバーの242.0mを繰り出しトップとなったが、2本目は少しタイミングが早かっただろうか。12番手のスコアで結果は2位。
3試合で1つの勝利と2つの2位。フライング総合でガイガーと得点が並んだが、勝利数の差で2位となった。

ところで、プラニツァ7のリザルトがFIS公式に見当たらないんだけど… 
ガイガーに20,000スイスフランの賞金が出ることだけは確認できたけど。

2020/21シーズン総括

札幌、北京そしてRAW AIRの計10試合が新型コロナの影響により中止となった今シーズンの男子ワールドカップ。
札幌はクリンゲンタールで、北京はザコパネで代替開催され、RAW AIRのうちヴィケルスン個人戦だけがプラニツァで代替開催された。
結果として、当初の予定より5試合少ない30試合(個人戦25試合・団体戦5試合)が開催された。

個人戦に限って言えば、当初の予定より3試合(RAW AIRのオスロ、リレハンメル、トロンハイム)しか減っていない。
8試合も減ってしまった女子に比べると、大勢に影響は少なかったと思われる。

ただし、北京での五輪プレ大会ができなかったこと、そして日本のファンにとっては札幌大会が開催されなかったことは、なんとも残念なことだった。

グランネルのシーズン

第1戦ヴィスワと第2戦ルカでいずれも自己最高位タイの4位となり初表彰台も近いと思わせたグランネル。
続く第3戦ルカで初表彰台を果たすわけだが、それがなんと一気に一番高いところに登ってしまった。

続く第4戦ニジニ・タギルで2勝目を挙げ、開幕2連勝のアイゼンビヒラーからイエロービブと主役の座を奪うと、そのまま勝ち続け、あれよあれよと5連勝。
ジャンプ週間で一旦鳴りを潜めたりはしたものの、第16戦からのドイツ4連戦で4連勝。
結局、一度もイエロービブを手放すことなく総合優勝に輝いた。

ワールドカップ総合順位

1 ハルヴォア-エグナー・グランネル(NOR)157211勝(61)
2 マルクス・アイゼンビヒラー(GER)11902勝(23)
3 カミル・ストッフ(POL)9553勝(5)
4 小林 陵侑(JPN)9193勝(3)
5 ロベルト・ヨハンソン(NOR)8841勝(17)
6 カール・ガイガー(GER)8263勝(2)
7 ピオトル・ジワ(POL)8252位2回(11)
8 ダヴィド・クバツキ(POL)7861勝(4)
9 アンツェ・ラニセク(SLO)7752位3回(15)
10 マリウス・リンビーク(NOR)6121勝(7)
11 佐藤 幸椰(JPN)5814位(13)
20 佐藤 慧一(JPN)2915位(34)
33 小林 潤志郎(JPN)11315位(30)
34 中村 直幹(JPN)11116位2回(43)
55 伊東 大貴(JPN)2121位(24)
 岩佐 勇研(JPN)034位(54)
右端の( )は昨シーズンの順位

WC総合

大会別優勝者

1ヴィスワLH M.アイゼンビヒラー(GER)
2ルカLH M.アイゼンビヒラー(GER)
3ルカLH H-E.グランネル(NOR)
4ニジニ・タギルLH H-E.グランネル(NOR)
5ニジニ・タギルLH H-E.グランネル(NOR)
6エンゲルベルクLH H-E.グランネル(NOR)
7エンゲルベルクLH H-E.グランネル(NOR)
8オーベルストドルフLH K.ガイガー(GER)
9ガルミッシューパルテンキルヘンLH D.クバツキ(POL)
10インスブルックLH K.ストッフ(POL)
11ビショフスホーフェンLH K.ストッフ(POL)
12ティティゼー-ノイシュタットLH K.ストッフ(POL)
13ティティゼーーノイシュタットLH H-E.グランネル(NOR)
14ザコパネLH M.リンビーク(NOR)
15ラハティLH R.ヨハンソン(NOR)
16ヴィリンゲンLH H-E.グランネル(NOR)
17ヴィリンゲンLH H-E.グランネル(NOR)
18クリンゲンタールLH H-E.グランネル(NOR)
19クリンゲンタールLH H-E.グランネル(NOR)
20ザコパネLH 小林 陵侑(JPN)
21ザコパネLH H-E.グランネル(NOR)
22ルシュノフNH 小林 陵侑(JPN)
23プラニツァFH 小林 陵侑(JPN)
24プラニツァFH K.ガイガー(GER)
25プラニツァFH K.ガイガー(GER)

突如として別の星から現れた者か-
初優勝からそのまま5連勝を果たしたグランネルに世間が一気に色めき立った。
既視感がある。2018/19の小林陵侑の再来では-

実際、グランネルと陵侑には共通点も多い。
共に1996年生まれ。同じ2015/16シーズンにWCデビュー。初優勝の地はルカ。
そして、初めて表彰台に載ったシーズンに初優勝を飾り、そのまま総合優勝。

H-E.グランネル小林陵侑
1996年5月29日誕生日1996年11月8日
2015.12.5
リレハンメル
予選落ち
WCデビュー2016.1.24
ザコパネ
7位
2020.11.29
ルカ
1位
WC初表彰台2018.11.18
ヴィスワ
3位
2020.11.29
ルカ
WC初優勝2018.11.24
ルカ
11WC通算勝利19

1位
61位
15位
20位
42位
0pt
総合順位
2020/21
2019/20
2018/19
2017/18
2016/17
2015/16

4位
3位
1位
24位
0pt
42位

ジャンプ週間でのグランドスラムやRAW AIRやフライングなど個人タイトルを総なめにした2018/19の陵侑ほどの圧倒的な強さがグランネルにあったわけではない。
それでも、ツボにはまると手が付けられない様は、やはり陵侑と同じく遠い星からやってきた者のように思える。

H-E.グランネル小林陵侑
2020/21
(25戦)
総合優勝
(開催試合数)
2018/19
(28戦)
11勝勝利数13勝
13回表彰回数21回
18回シングル順位27回
37位ワースト順位14位
1572獲得ポイント2085
4位ジャンプ週間1位
(4戦全勝)
1位ヴィリンゲン5.61位
RAW AIR1位
プラニツァ71位
19フライング1位

世界選手権個人LHを前にしてまさかのコロナ陽性となったりもした。
ジャンプ週間中にちょっとした舌禍事件を引き起こしたり、悪い条件で飛ばされた時などに運営への不満を露骨に顔に出したりと、やや精神的な幼さも見え隠れした。

完璧なマシーンのように歴史を塗り替えていった小林陵侑と比べると、グランネルにはどこか危うさも残る。
そういうところもまた魅力の一つなのかもしれない。

新形コロナの影響

開幕戦ヴィスワで団体戦に勝利する好発進を見せたオーストリア。
しかし、その直後に陽性者が出てBチームに総入れ替え。
ところが今度はそのBチームにも陽性者が出て一時壊滅状態に。

昨年の総合王者であるクラフトもこれに飲まれた。
今季の表彰台は第13戦ティティゼー-ノイシュタットでの3位だけ。
もっとも、クラフトの場合は持病の腰痛が悪さをしたことも響いたけれど。

ポーランドはムランカの陽性反応によりチーム全体のジャンプ週間の出場が危ぶまれた。
結局は全員陰性となり、すでに行われていた初戦の予選をキャンセルするという超法規的措置で出場できた。
もし、そのまま出場できなければストッフの3度目のゴールデンイーグル獲得はなかったわけだ。
ちなみに、ジャンプ週間では総合2位のガイガーも直前まで出られるかどうかわからない状況だった。

他にもロシア、チェコ、ブルガリア、さらには夏に就任したばかりの新レース・ディレクターのピエトロまでもがコロナ陽性で欠場を余儀なくされた。

そしてグランネルも。
ただ、彼の場合は世界選手権個人LHに出られないのは不運ではあったが、ほぼ時を同じくしてWC総合優勝が確定したことと、次の試合まで3週間空くことになった為にWC欠場せずに済んだのは不幸中の幸いだった。

このように新型コロナの影響を多大に受けたシーズン。
男女ともに言えることではあるが、コロナ陽性にならないというのがシーズンの結果を左右する重要なファクターとなった1年だった。

その他のシーズンタイトル

ジャンプ週間総合順位

1 K.ストッフ(POL)1110.6
2 K.ガイガー(GER)-48.1
3 D.クバツキ(POL)-52.8
4 H-E.グランネル(NOR)-53.2
5 P.ジワ(POL)-73.4
6 小林 陵侑(JPN)-78.1
13 佐藤 幸椰(JPN)-121.9
14 佐藤 慧一(JPN)-125.6
18 小林 潤志郎(JPN)-254.0
41 中村 直幹(JPN)-634.2

ジャンプ週間総合順位

ヴィリンゲン6総合順位

1 H-E.グランネル(NOR)574.0
2 D-A.タンデ(NOR)-41.0
3 M.アイゼンビヒラー(GER)-56.6
4 P.ジワ(POL)-61.4
5 D.クバツキ(POL)-70.3
7 小林 陵侑(JPN)-91.6
14 佐藤 慧一(JPN)-115.0
25 中村 直幹(JPN)-149.2
26 佐藤 幸椰(JPN)-150.4
30 伊東 大貴(JPN)-189.9

ヴィリンゲン6総合順位

フライング総合順位

1 K.ガイガー(GER)260
2 小林 陵侑(JPN)-0
3 M.アイゼンビヒラー(GER)-88
4 B.パブロフチッチ(SLO)-119
5 D.プレヴツ(SLO)-128
8 佐藤 幸椰(JPN)-151
17 中村 直幹(JPN)-231
30 小林 潤志郎(JPN)-248
34 佐藤 慧一(JPN)-251

フライング総合順位

団体戦 大会別優勝国

1 ヴィスワLH オーストリア日本5位
2 ザコパネLH オーストリア日本5位
3 ラハティLH ノルウェー日本5位
4 ルシュノフNH-Mix ノルウェー日本4位
5 プラニツァFH ドイツ日本2位

ネイションズカップ総合順位

1 ノルウェー5429
2 ポーランド-691
3 ドイツ-1068
4 オーストリア-1907
5 スロベニア-2194
6 日本-2318

国別総合順位

小林陵侑の日本記録更新

小林陵侑の序盤戦は非常に悪かった。
ジャンプ週間あたりから徐々に調子が上がり始め、一気に爆発したのはシーズンも終盤に差し掛かった第20戦ザコパネ。そこでの今季初表彰台が初優勝。
そこを皮切りに、最終盤では2018/19を彷彿させる目覚ましい活躍を見せ、初優勝前には11位だった総合順位をわずか6試合で4位まで上げて見せた。

スキージャンプの場合は、無敵の強さを誇って勝ちまくっていた選手が、シーズンが変わるとまるで勝てなくなるということは割とよくある。

そんな中で、毎シーズン勝利を積み上げ、しっかりと総合上位につけてくる小林陵侑はやはり素晴らしい選手だ。
今季は、葛西紀明が24シーズン掛けて積み上げた日本人最多勝利数を僅か3シーズンで抜き去ってしまった。

今後、2018/19のような爆発的なシーズンが再現されるかどうかはわからない。
それでもストッフやクラフトのように、常にトップレベルを維持しコンスタントに勝利を重ねていく選手になっていくのではないだろうか。
この男の今後が楽しみでならない。

日本チームの闘い

逆に非常にいいスタートを切った佐藤幸椰は、序盤4試合で全てシングル。
表彰台はもちろんのこと、いくつかの勝利を収めるであろうと期待された。
しかし、終わってみれば最高位は4位。シングルは13回あったが表彰台には届かなかった。
総合11位は過去最高だが少し物足りなさが残った。そのぐらいの成績を期待される選手になったということだ。

佐藤慧一、中村直幹も過去最高の総合順位となった。
小林潤志郎はクォーター数確保のために自らを犠牲にしなければならない場面もあり不本意なシーズンであったろうが、不満を表すことなくフォアザチームに徹していたように映った。
伊東大貴は、ジャンプ週間前に自ら望んで一旦帰国したが、再び戦列に戻った者の腰痛が悪化しそのままシーズを終えることとなってしまった。

2017/182018/192019/202020/21
 小林陵侑1位3位4位
 佐藤幸椰45位23位13位11位
 佐藤慧一56位34位20位
 小林潤志郎11位19位30位33位
 中村直幹69位39位43位34位
 伊東大貴63位32位24位55位

札幌大会が無かったので、国内組にとっての唯一のチャンスともいえる開催国枠でのポイント獲得が無かった。コンチネンタルカップの派遣も無いので、選手の入れ替えも岩佐勇研のみ。WCチーム入りを目指す国内組にとってはなんとも歯がゆいシーズンとなってしまった。

また、WCチームは伊東大貴を除けばシーズン中に一度も日本に帰れなかった。
欧州列強と比べて、とんでもないハンデを背負いながら日本チームは戦ってきた。

これ、全てコロナの影響。
こんなことは、もう懲り懲りだ。