スキージャンプFISワールドカップ2021/22女子個人第19戦オーベルホフ【シーズン総括】

スロベニアが表彰台独占でシーズンを締めくくる

2022年3月13日(日)オーベルホフ(GER)HS100/K90

26th World Cup Competition

1  ウルサ・ボガタイ(SLO) 277.4pt
2  ニカ・クリジュナル(SLO) 273.1pt
3  エマ・クリネツ(GER) 262.4pt
 
7  高梨 沙羅(クラレ) 249.3pt
14  伊藤 有希(土屋ホームスキー部) 214.6pt
22  勢藤 優花(北海道ハイテクAC) 202.9pt
28  岩渕 香里(北野建設) 189.8pt
34  岩佐 明香(大林組スキー部) 84.5pt

予選リザルト オフィシャル リザルト


シュペラ・ロゲリは、キャリア最後のワールドカップとなるこの試合で1本目を3位で折り返した。
残念ながら2本目は飛距離を伸ばせず2015年2月のヒンツェンバッハ以来となる自身6度目の表彰台とはならなかったが、引退試合で表彰台争いを演じたことには只々驚かされた。

今シーズンのワールドカップでは開幕から試合に出続けた。3度目となるオリンピックにも出場し見事9位に入った。そして引退試合では表彰台争いに絡んで見せた。
こんなふうに一線級のまま引退してゆく選手は意外に少ない。

2011年12月3日の記念すべき第一回女子ワールドカップに出場した古参の選手。
2014/15リレハンメルでスロベニアの女子選手として初めての優勝を飾り、そのシーズンに総合4位。
今や強豪国となったスロベニア女子チームの礎を築いてきた選手の一人であり、スロベニアを代表する選手だった。

そのレジェンドとの別れに花を添えるかのようにチームは表彰台を独占。
第1回ワールドカップからロゲリのチームメートであったボガタイが今季3勝目。
クリジュナルは今季6度目の2位。
クリネツは今季5度目の表彰台。

スロベニアの表彰台独占は初めてだが、女子ワールドカップでの同一国での表彰台独占は2016/17リュブノでのドイツ(アルトハウス、フォークト、ヴュルト)以来2ヵ国目の快挙となるはず。

2021/22シーズン総括

初優勝者3人を含む史上最多となる7人の優勝者が出た今シーズン。
群雄割拠の様相を呈しはしたが、しかし、最多の7勝を挙げたクラマーが強さを見せ、初の総合優勝に輝いた。

ワールドカップ総合順位

1 マリタ・クラマー(AUT)13167勝(3)
2 ニカ・クリジュナル(SLO)11913勝(1)
3 ウルサ・ボガタイ(SLO)11513勝(16)
4 カタリナ・アルトハウス(GER)6061勝(9)
5 高梨 沙羅(JPN)8433勝(2)
6 シリエ・オプセット(NOR)7311勝(4)
7 エマ・クリネツ(SLO)6801勝(6)
8 伊藤 有希(JPN)4493位1回(14)
9 リサ・エダー(AUT)4203位1回(20)
10 ジャクリーン・ザイフリーズベルガー(AUT)3936位(-)
19 岩渕 香里(JPN)2216位(31)
21 勢藤 優花(JPN)  2039位(30)
43 岩佐 明香(JPN)2224位(-)

右端の( )は昨シーズンの順位

WC総合

大会別優勝者

1ニジニ・タギルNH M.クラマー(AUT)
2ニジニ・タギルNH N.クリジュナル(SLO)
3リレハンメルNH K.アルトハウス(GER)
4リレハンメルLH M.クラマー(AUT)
5クリンゲンタールLH M.クラマー(AUT)
6クリンゲンタールLH M.クラマー(AUT)
7ラムサウNH M.クラマー(AUT)
8リュブノNH N.クリジュナル(SLO)
9リュブノNH 高梨 沙羅(JPN)
10ヴィリンゲンLH M.クラマー(AUT)
11ヴィリンゲンLH N.クリジュナル(SLO)
12ヒンツェンバッハNH U.ボガタイ(SLO)
13ヒンツェンバッハNH N.クリジュナル(SLO)
14リレハンメルLH 高梨 沙羅(JPN)
15リレハンメルLH M.クラマー(AUT)
16オスロLH S.オプセット(NOR)
17オスロLH 高梨 沙羅(JPN)
18オーベルホフNH U.ボガタイ(SLO)
19オーベルホフNH U.ボガタイ(SLO)

シーズンを席巻したクラマー

サラ・ヘンドリクソン、高梨沙羅、マーレン・ルンビ。 これまでにも異次元の強さを見せつけてきた選手はいるが、この日のクラマーの勝ちっぷりは、その誰よりも衝撃的なものだと個人的には感じられた。

スキージャンプFISワールドカップ2021/22女子個人第1戦ニジニ・タギル

この選手に勝てる者などいるのだろうか。
開幕戦ニジニ・タギルでのクラマーはそれぐらい衝撃的な勝ちっぷりだった。
一人の選手が無双するとシーズンはつまらなくなってしまうと思っているので、たった1日でクリネツにイエロービブを奪われた時には、正直ちょっとホッとしたものだ。

しかし、第3戦リレハンメルですぐさまイエローを奪取。
第4戦リレハンメルから第7戦ラムサウまでは破竹の4連勝。
結局、イエロービブを失ったのは第2戦のみで、それ以降は首位を走り続けた。

とはいえ、つまずきもあった。
第10戦ヴィリンゲン終了後にコロナ陽性反応。金メダルの最有力候補だった北京オリンピックの欠場を余儀なくされ悲嘆にくれた。
けれどもワールドカップの欠場は1試合だけで済んだことは不幸中の幸いだった。

クラマーを脅かしたスロベニア勢

向かうところ敵なしの状態にあったコロナ欠場前に比べると、復帰後のクラマーにはやや陰りが見えていたように思う。
いや、クラマー自身に陰りが見えたというよりも、より強い輝きを放つ者たちが現れたと言った方が適当だろうか。

昨季の総合女王クリジュナル、今季遂に初優勝を遂げたボガタイとクリネツ。
中でも五輪個人NHで金のボガタイと銅のクリジュナルは、五輪以降にクラマーをかなり苦しめた。
五輪以降に関して言えば、勢力図はクラマーの天下からスロベニア勢の栄華に完全に移り変わっていた。

その状況の変化に、クラマーはかなり焦りを感じているように見えた。
もともとクールな印象のあるクラマーではあったが、徐々に表情が暗くなったように見え、時として苛立ちを感じているようにさえ見えた。
第15戦リレハンメルでの5試合ぶり勝利の瞬間のホッとしたような表情が、追い詰められていたことを物語っていたように思う。

昨シーズンのクラマーが、最多の7勝を挙げシーズンを席巻したにもかかわらず総合優勝できなかったのは、ひとえに新型コロナの影響だった。
陽性の疑いがあったため2試合の欠場を余儀なくされ、その挽回の機会となるはずのいくつかの試合が中止となってしまったのが痛かった。
せめてあと1試合だけでも中止とならずに開催されていれば総合優勝はクリジュナルではなくクラマーだった可能性が高い。

今季は、ウクライナ情勢により最終盤のロシアでの4試合が中止となったが、開催されていればタイトルの行方はわからなかった。
勢いは完全にクリジュナルとボガタイの二人にあった。逆転の可能性は大いにあったように思う。
昨季のクラマーが味わった悔しさを今季はクリジュナルとボガタイが味わうことになってしまったのだとしたら何とも皮肉だ。

百花繚乱のニューカマー

今シーズンは魅力的なニューカマーが次々と登場したシーズンでもあった。
中でもフリダ・ヴェストマン(SWE)がスゴイ。
今季開幕戦でデビューを果たしたばかりの21歳は、2度の4位を含む7度のトップ10入りを果たし総合は13位。デビューイヤーとしては見事すぎる成績を残した。

今季個人戦デビューを果たした18歳のアレクサンドリア・ルティトと2016/17のデビューから初のシングル入りを果たした21歳のアビゲイル・ストレイトの二人はオリンピックの混合団体ではカナダに銅メダルをもたらした。

ニューカマーと呼ぶにはそれなりにキャリアのある選手ではあるが、2017/18のデビューから初の表彰台をゲットし総合9位となったクラマーと同期のリサ・エダー(AUT)、2018/19のデビューから初の表彰台を射止め総合11位となった19歳のジョセフィーヌ・パニエ(FRA)、2013/14のデビューからようやく表彰台に登った23歳のアレクサンドラ・クストワ(RUS)らも輝きを放った。

彼女たちが最も輝いたヒンツェンバッハは、上位陣が多く欠場したボーナスステージのような試合ではあった。
でも、だからこそ、その千載一遇のチャンスを意地でも物にしてやろうというニューカマーたちの気概を感じる試合となった。そして、そこに立ちふさがるクリジュナルとクラマーの圧倒的存在感。
個人的には今シーズンで最も面白い試合がこの第13戦だった。

その他のシーズンタイトル

Silvester Tour 総合順位

1 M.クラマー(AUT)519.4pt
2 N.クリジュナル(SLO)-4.2
3 高梨 沙羅(JPN)-6.4
4 U.ボガタイ(SLO)-8.0
5 E.クリネツ(SLO)-10.4
11 勢藤 優花(JPN)-52.6
26 岩渕 香里(JPN)-113.2
29 伊藤 有希(JPN)-211.0
32 岩佐 明香(JPN)-223.7

Silvester総合順位

Alpenkrone 総合順位

1 N.クリジュナル(SLO)701.0pt
2 M.クラマー(AUT)-16.7
3 L.エダー(AUT)-62.7
4 F.ヴェストマン(SWE)-63.8
5 J.ザイフリーズベルガー(AUT)-85.2
11 勢藤 優花(JPN) -106.1
20 伊藤 有希(JPN) -216.3
24 岩渕 香里(JPN) -267.2
33 高梨 沙羅(JPN) -450.0
45 岩佐 明香(JPN) -545.9

Alpenkrone総合順位

RAW AIR 総合順位

1 N.クリジュナル(SLO)1592.7pt
2 高梨 沙羅(JPN)-39.6
3 U.ボガタイ(SLO)-46.7
4 M.クラマー(AUT)-81.7
5 伊藤 有希(JPN)-185.8
19 勢藤 優花(JPN)-485.1
22 岩渕 香里(JPN)-579.2
29 岩佐 明香(JPN)-789.3

RAW AIR総合順位

団体戦 大会別優勝国

1 ヴィリンゲンLH-Mix スロベニア日本5位
2 ヒンツェンバッハNH オーストリア日本4位
3 オスロLH-Mix スロベニア日本4位

ネイションズカップ総合順位

1 スロベニア4570
2 オーストリア-747
3 日本-2357
4 ドイツ-2639
5 ノルウェー-2761

国別総合順位

日本チームのこれから

最終戦のテレビ中継では、日本人選手全員の試合後のインタビューが流れた。
来季について聞かれた高梨沙羅は明言を避け、また岩渕香里も来季について触れることはなかった。

伊藤有希が、「来季は若い選手が絶対に選ばれて上がってくると思うので、新しいチームを作っていきたい」というようなことを言っていた。
“絶対に”若い選手が上がってくるということは、誰かがチームから去るということになる。

これ以上は憶測の域を出ないのでここまでとしておくが、ただ、来シーズンの選手選考は少し難しいのかなという気はしている。
丸山希が怪我から復帰してくるとして、その扱いをどうするのか。特に国内組の選手との兼ね合いをどう取るのか。

追記:
2022年4月1日に、北野建設から岩渕香里選手の現役引退が正式に発表されました。

新型コロナの影響によりWC日本開催は2シーズン連続で中止された。
開催国枠での出場を足掛かりに海外派遣を目指そうとする国内組にとっては、ノーチャンスと言える2シーズンだった。

来年は開催できるという保証はない。
従来と同じ選考方法では、国内組はまたもノーチャンスとなってしまうことが危惧される。
SAJは、国内で頑張っている選手たちに、どうすれば代表チームに入ることができるのかの新たな道筋を明確に示す必要があるだろう。