第103回全日本スキー選手権ラージヒル 兼 第20回SBC杯スペシャルジャンプ白馬大会

小林陵侑が2年ぶり4度目のラージヒル制覇 伊藤有希はラージヒル初優勝で二冠達成

全日本スキー連盟A級公認
  • 2024年10月20日(日)
  • 白馬村 白馬ジャンプ競技場
  • HS134/K120

女子スペシャルジャンプ

1  伊藤 有希(土屋ホームスキー部) 236.2pt
2  高梨 沙羅(クラレ) 228.6pt
3  丸山 希(北野建設スキー部) 211.1pt
 
4  勢藤 優花(オカモトグループ) 158.1pt
5  岩崎 里胡(下川スキーチーム) 144.2pt
6  葛西 優奈(早稲田大学) 140.0pt

リザルト

男子スペシャルジャンプ

1  小林 陵侑(TEAM ROY) 282.7pt
2  二階堂 蓮(日本ビールスキー部) 271.2pt
3  内藤 智文(山形県スポーツ協会) 269.7pt
 
4  葛西 紀明(土屋ホームスキー部) 267.0pt
5  小林 潤志郎(Wynn.) 260.1pt
6  佐藤 慧一(雪印メグミルクスキー部) 257.2pt

予選リザルト リザルト


これらを基に選考基準に当てはめると、次の4名の選手が当確ということになる。

  • の基準により… 小林陵侑、二階堂蓮、小林潤志郎
  • の基準により… 佐藤慧一

残り1枠が決まるのは、10月20日の白馬。

スキージャンプFISグランプリ2024男子個人第9戦クリンゲンタール【個人総合成績】

この試合の最大の注目点をどこに置くかは、観る人それぞれにより異なるだろう。
ただ、個人的には男子ワールドカップ開幕メンバーの最後の1枠を懸けた争い、それに尽きる。

選考基準通りであれば5人の選考枠に対し既に4名の選手が当確しているが、残り1枠はこの試合で上記4名を除いて最高位になった選手に与えられる。
他にもいくつかの前提条件があるが、それを踏まえると争いの渦中にいるのは中村直幹、小林朔太郎、竹内択、内藤智文、葛西紀明といった選手たちとなるだろう。

この争いの口火を切ったのは葛西紀明。
1本目で136.0mの大ジャンプを見せた。
ゲートが下がることはなく、決戦はヒルサイズ付近での争いとなるであろうことを決定付けた。

これに応えたのがノーマルヒルの覇者である内藤智文。
夏のヒルレコードを4.5mも更新する140.5mを繰り出した。
さすがにテレマークこそ入れられなかったが1.4pt差で葛西を上回る。

1本目を終えて、3位:内藤(137.1pt)、4位:葛西(136.0pt)、6位:小林(132.5pt)、7位:中村(130.9pt)、10位:竹内(125.3pt)

2本目。
竹内、中村、小林はそれぞれ良いジャンプを見せるも、何せこの日は向かい風に乗った大ジャンプ合戦。上位陣も軒並み大ジャンプを繰り出す中で思ったように順位を上げることができない。
決着は葛西と内藤に絞られたか。

ほぼ同じ条件下で葛西が131.5m、内藤が130.5m。微妙な勝負であったが2.7pt差で内藤が上回りカレントリーダーに。この時点で内藤が最後の1枠に当確となった。
その刹那に見せた万感胸に迫る表情。それは、ノーマルヒルで優勝が決まった時とはまるで違う表情に見えた。

実は、内藤智文にはこの日に向けてテレマークに秘策があった。
2本目の飛型点は、葛西の53.5に対して55.5と2.0pt上回った。
秘策が功を奏したか。

大ジャンプ合戦の中、ただひとりヒルサイズオーバーを2本、それも完璧なテレマークを決めて見せた小林陵侑が盤石の勝利。
陵侑の全日本選手権ラージヒル制覇は2年ぶり4度目。もっとも昨年は棄権しているけれど。

昨年の覇者である二階堂蓮が2位。
内藤との、歴史に残るような息詰まる接戦を演じた葛西紀明は4位。

女子は伊藤有希が初優勝。
全日本選手権の女子ラージヒルは2021年の第100回大会に新設されたが、そこから三連覇していた高梨沙羅を止めて見せた。
また、金曜日のノーマルヒルに続いてラージヒルも制して二冠達成となる。

全日本選手権 二冠達成者

第40回  菊地 定夫(雪印乳業)  
第43回  藤沢 隆(早稲田大学)  
第46回  藤沢 隆(国土計画)  
第47回  笠谷 幸生(ニッカウヰスキー)  
第50回  板垣 宏志(国土計画)  
第74回  西方 仁也(雪印乳業)  
第76回  原田 雅彦(雪印乳業)  
第79回  原田 雅彦(雪印乳業)  
 第80回  岡部 孝信(雪印乳業)  
第90回  吉岡 和也(土屋ホーム)  
第93回  佐藤 幸椰(雪印メグミルク)  
第99回  佐藤 幸椰(雪印メグミルク)  
第100回  小林 陵侑(土屋ホーム)  高梨 沙羅(クラレ)
第101回    高梨 沙羅(クラレ)
第103回    伊藤 有希(土屋ホーム)

全日本選手権ラージヒル歴代優勝者

大 会 男子 女子
第94回  作山 憲斗(北野建設)  
第95回  竹内 択(北野建設)  
第96回  葛西 紀明(土屋ホーム)  
第97回  伊東 大貴(雪印メグミルク)  
第98回  小林 陵侑(土屋ホーム)  
第99回  佐藤 幸椰(雪印メグミルク)  
第100回  小林 陵侑(土屋ホーム)  高梨 沙羅(クラレ)
第101回  小林 陵侑(土屋ホーム)  高梨 沙羅(クラレ)
第102回  二階堂 蓮(日本ビール)  高梨 沙羅(クラレ)
第103回  小林 陵侑(TEAM ROY)  伊藤 有希(土屋ホーム)

試合終了後に、ワールドカップ開幕メンバーの発表が今年もまたマスコミを通じて行われた。

女子ワールドカップ日本代表

Lillehammer

  • 伊藤 有希(土屋ホームスキー部)
  • 高梨 沙羅(クラレ)
  • 丸山 希(北野建設SC)
  • 勢藤 優花(オカモトグループ)
  • 一戸 くる実(CHINTAIスキークラブ)
  • 岩佐 明香(大林組スキー部)

女子については、伊藤有希、高梨沙羅、丸山希、勢藤優花の4名は下記❶の基準により選出され、❷と❸の該当者がいなかった為、一戸くる実、岩佐明香は❹の基準により選出されたと読み取れる。(詳細はこちら
選考基準通りの順当な選出といえよう。

女子ワールドカップ
Lillehammer選考方法

  1. 2023/24 シーズンWCランキング30位以内の選手
  2. 2024/25 シーズンのSGPにおいて3位以内、または10位以内の成績を2回以上収めた選手(但し、前シーズンWCランキング10位以内の競技者が50%以上出場した試合の成績に限る)
  3. 全日本選手権ノーマルヒル、ラージヒル大会優勝者
  4. 2024/25 SGPランキング上位の選手
  • 派遣選手6名

ライブラリー | 公益財団法人全日本スキー連盟 (ski-japan.or.jp)

一方で、物議を醸しそうなのが男子。

男子ワールドカップ日本代表

Lillehammer/ Ruka /Wisla/ Titisee-Neustadt/Engelbelg

  • 小林 陵侑(TEAM ROY)
  • 二階堂 蓮(日本ビールスキー部)
  • 小林 潤志郎(Wynn.)
  • 佐藤 慧一(雪印メグミルクスキー部)
  • 中村 直幹(Flying Laboratory SC)

小林陵侑、二階堂蓮、小林潤志郎の3名は下記❶の基準で、佐藤慧一は❷の基準で選出されたと読み取れる。
そして、❸の基準により内藤智文が選出されるはずだが、なぜか選出されなかった。

ワールドカップ
Lillehammer/ Ruka /Wisla/ Titisee-Neustadt/Engelbelg 選考方法

  1. 2024/2025 WRL 上位 3 名の選手(10月7日時点)
  2. 2024/2025 SGP ランキング上位 1 名の選手
    • ❶の選手を除く
  3. 全日本選手権大会ラージヒルの上位 1 名の選手
    • ❶と❷の選手を除く

○ 選手選考の条件

  1. WC 出場資格を有している選手
  2. 2024/2025 SGP 出場者または下記 4 大会の総合ジャンプポイントの上位 6 名の選手
    • 第 42 回札幌市長杯宮の森サマージャンプ大会
    • 第 25 回札幌市長杯大倉山サマージャンプ大会
    • チャレンジカップ 2024 大倉山サマージャンプ大会
    • サマースキージャンプ 2024 山形蔵王大会
  • 選考人数合計5名(クォーター数によって変動)
  • 状況に応じて、コーチ会議を行い、ヘッドコーチが最終決定する

ライブラリー | 公益財団法人全日本スキー連盟 (ski-japan.or.jp)

❸の基準通りの選考が行われなかった理由について、作山ヘッドコーチから “枠の確保のため” であることがマスコミを通じて説明があった。
選考基準全体の冒頭にある「クォーター枠を確保しなければならない場合は、選考基準に沿わずコーチ会議を行いヘッドコーチ判断で、選手を決定する」という例外規定、又は今回の選考基準にある「状況に応じて、コーチ会議を行い、ヘッドコーチが最終決定する」という例外規定のいずれか又は両方が発動したようだ。

クォーター枠(国ごとに与えられるワールドカップのエントリー人数の枠)は、ワールドランキングリスト(WRL)とアロケーションリストによってピリオドごとに決められる。
WRLは、1年間のワールドカップとグランプリを7つのピリオドに区分し、その直近7つのピリオドのポイントにより順位付けをしたリスト。
このリストから、各国ごとに6番手以降の選手を削って上位45人を並べたものがアロケーションリスト。
アロケーションリストに載っている人数が、次のピリオドの各国のクォーター枠となる。

WRLは、直近7つのピリオドの集計なので、一つのピリオドが終われば一番古いピリオドのポイントがリストから消える。よって、これに伴ってアロケーションリストからも一番古いピリオドのポイントが消える。
このようにWRLとアロケーションリスト上のポイントは増えることもあれば減ることもあるというのがミソ。

最新版WRL 最新版アロケーションリスト

最新のアロケーションリストの日本勢5番手に中村直幹の名前があるが、40位(WRLでは44位)であることから次のピリオド(ワールドカップの開幕ピリオド)でポイントを稼がないとリストの圏外となってしまう恐れがある。
そうなると日本のクォーター枠は4に減ってしまい、これは一大事。
なので、5枠を維持するためには中村直幹を開幕ピリオドのメンバーに選出してポイントを獲得してもらわなければならない。というのが作山ヘッドコーチの考えのようだ。

しかし…

中村直幹のWRL上のポイントは現在132あるが、これはあと3ピリオドは減ることがない。
一概には言えないけれど、132ptあれば少なくともあと3ピリオドの間はアロケーションリストに残り続けるのではないだろうか?
もちろん絶対安全ではないけれど、「クォーター枠を確保しなければならない場合は、選考基準に沿わずコーチ会議を行いヘッドコーチ判断で、選手を決定する」や「状況に応じて、コーチ会議を行い、ヘッドコーチが最終決定する」という例外規定を発動しなければならないほど危機的な状況といえるのだろうか?

昨年のワールドカップ開幕ピリオド終了時点のアロケーションリスト上の日本勢5番手はWRLで42位の内藤智文で、そのポイントは125。
最終的には114ptに減ったが、それでも内藤の名前はアロケーションリストに丸1年残り続けた。
私が、132ptの中村直幹が残り続けるだろうと考える理由がこれだ。

さらに…

内藤智文が、選考基準を満たしているにもかかわらず選出されなかったのは、実は今回で二度目。

昨年のワールドカップの開幕ピリオド終了時点で基準を満たしていたのに、次のピリオド(ジャンプ週間)のメンバーには選出されなかった。
その選考における例外規定としては「クォータ枠確保を優先する必要がある場合は考慮する」しかないので、これが発動したということになろう。

しかし、やったことはクォーター枠が5から4に減る危険を冒したことに他ならない。
その危険を冒してでも選考基準をクリアしている選手を外したわけで、「クォータ枠確保を優先する必要がある場合は考慮する」に反した決定であったといえる。

昨年は、125ptを保有しクォーター枠確保のために重要な選手を、選考基準の例外規定にすら沿わずに切り捨てた。
今回は、132ptを保有しクォーター枠確保のために重要な選手を、選考基準の例外規定によって選出した。

同じ理由でありながら、全く真逆のことをしているわけで、これではタブルスタンダードではないか。

選手選考の最終決定は「大会後の協議の末」になされたと報道にはあるが、おそらくはグランプリの個人戦が終了しアロケーションリストが発表された10月6日の時点で、ある程度の方針は決まっていたものと推測される。

ところで、

今季の選考基準の発表は例年とは違う時期に行われている。
以前は、ワールドカップの選考基準は夏のグランプリが終わった段階で発表されていた。
時として、夏の成績を見てから冬の開幕メンバーを当て書きしているようにも見えたことも含めて、私はこれに対して批判的だった。夏の成績を冬の選考基準に加味するのであれば、夏シーズンが始まる前に夏と冬の選考基準を示すのが筋であろうと。

ただ、結果論ではあるが、以前のように夏の結果を見てから冬の開幕メンバーを当て書きしたような基準を作っていれば、今回のようなことは起きなかったのかもしれない。

それでも私は、そこに戻るべきではないと思う。
やはり、夏の成績を冬の選考基準に加味するのであれば、夏シーズンが始まる前に夏と冬の選考基準を示すべきだ。
選考基準の精度は年々高まり、今シーズンの選考基準はその集大成ともいえるほど良く作られていると個人的には思っている。だから、問題は基準そのものではなく、その運用にあるのだと思える。

いずれにしても今回のような運用では、選考基準を信じて戦った選手たちがあまりにも不憫だ。
内藤智文が勝負を決定づけた刹那に見せた万感胸に迫る表情を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。

なお、この試合は男子コンチネンタルカップの選考も兼ねていたが、内藤智文は、葛西紀明、小林朔太郎、竹内択と共にこちらに選出されている。

当たり前の話なので敢えて言うまでもないが、最終的な選考がどうであったにしても選手たちには何の責任もない。選出された選手は、それぞれの舞台で思いっきり暴れてきてほしい。
また、ワールドカップにもコンチネンタルカップにも選出されなかった選手たちも次のチャンスを狙ってほしい。その道筋が選考基準に示されているのだから。

2024夏季・秋季 表彰台(女子)

大会 優勝 2位 3位
サンピラー記念 伊藤 有希 一戸 くる実 葛西 優奈
札幌市長杯NH 丸山 希 葛西 春香 伊藤 有希
札幌市長杯LH 伊藤 有希 丸山 希 勢藤 優花
チャレンジカップ 伊藤 有希 勢藤 優花 丸山 希
サマー蔵王 丸山 希 伊藤 有希 中山 和
塩沢 伊藤 有希 岩佐 明香 一戸 くる実
白馬記録会 伊藤 有希 岩佐 明香 葛西 優奈
白馬サマー 伊藤 有希 勢藤 優花 一戸 くる実
妙高サマー 伊藤 有希 岩佐 明香 一戸 くる実
鹿角サマー 葛西 優奈 櫻井 梨子 中山 和
全日本選手権NH 伊藤 有希 高梨 沙羅 丸山 希
全日本選手権LH 伊藤 有希 高梨 沙羅 丸山 希
UHB杯      
NHK杯      

※ 白馬記録会は全日本公認試合ではない

2024夏季・秋季 表彰台(少年)

大会 優勝 2位 3位
札幌市長杯NH 布施 飛雄真 森 大耀 三上 託摩
札幌市長杯LH 布施 飛雄真 佐々木 星語 三上 託摩
チャレンジカップ 布施 飛雄真 森 大耀 姫野 蒼大
サマー蔵王 布施 飛雄真 森 大耀 西田 蓮太郎
塩沢 西田 蓮太郎 布施 飛雄真 三上 託摩
妙高サマー 布施 飛雄真 糸氏 琉人 西澤 希陸

2024夏季・秋季 表彰台(男子)

大会 優勝 2位 3位
サンピラー記念 佐藤 幸椰 佐藤 慧一 坂野 旭飛
札幌市長杯NH 佐藤 慧一 二階堂 蓮 内藤 智文
札幌市長杯LH 二階堂 蓮 佐藤 慧一 竹内 択
チャレンジカップ 小林 陵侑 竹花 大松 小林 朔太郎
サマー蔵王 小林 陵侑 中村 優斗 二階堂 蓮
塩沢 内藤 智文 藤田 慎之介 中村 優斗
白馬記録会 竹花 大松 竹内 択 葛西 紀明
白馬サマー 内藤 智文 二階堂 蓮 葛西 紀明
妙高サマー 小林 朔太郎 内藤 智文 佐藤 慧一
鹿角サマー 内藤 智文 藤田 慎之介 山﨑 叶太郎
全日本選手権NH 内藤 智文 小林 陵侑 中村 直幹
全日本選手権LH 小林 陵侑 二階堂 蓮 内藤 智文
UHB杯      
NHK杯      

※ 白馬記録会は全日本公認試合ではない

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