北京オリンピック2022 男女混合団体

新種目の混合団体 スロベニアが金メダル 日本は4位

2022年2月7日(月) 北京(CHN)HS106/K95

Mixed Team

スロベニア1001.5pt
クリジュナル、ザイツ、ボガタイ、P.プレブツ
ROC890.3pt
マヒーニャ、サドレーフ、アバクモワ、クリモフ
カナダ844.6pt
ルーティット、ソークップ、ストレート、ボイド-クローズ
 
4日本836.3pt
高梨沙羅、佐藤幸椰、伊藤有希、小林陵侑
5オーストリア818.0pt
6ポーランド763.2pt
7チェコ722.8pt
8ノルウェー707.9pt

オフィシャル リザルト


女子NHの金・銅メダリストを擁するスロベニアが前評判通りの圧勝で金。
この台との相性の良さをトレーニングから見せていたロシアが銀。
ボイド-クローズの一発で逃げ切った伏兵カナダがサプライズの銅。

新種目として五輪では初めて行われた混合団体。
メダルを争うはずだった強豪国ー オーストリア、ドイツ、ノルウェー、そして日本 ーから5人もの失格者が出てしまい、熱戦が期待された試合はなんとも後味の悪いものとなってしまったように思う。

失格の理由は5人ともスーツの規定違反。
スキージャンプ競技では決して珍しくない違反であり、一試合で複数の選手がこの違反により失格となることもしばしば発生する。

しかし、いつものWCと様相を異にするのは、5人はさすがに多いかなということ。
しかも、全て女子選手。
さらには、いずれもメダルを狙える強豪国のエース級の選手。
5人はいずれも飛び終わった後の抽出検査で違反と判定された。

1本目にアルトハウスが失格となったドイツは2本目に進むことができず9位。
同じく1本目にイラシュコ-シュトルツが失格となったオーストリアは5位。
2本目にストロームとオプセットが失格となったノルウェーは8位。
いずれもメダルには届かなかった。

5人の中で最初に失格となったのは高梨沙羅。
1番手として登場し103.0mで2位となりスタートダッシュに成功したが、その後に失格が明らかとなり、自分を責めて泣き崩れた。
1本目が終わって日本は8位。ぎりぎりで2本目に進んだ。

チームメート達の声に励まされ「最後まで飛ぶ」と臨んだ2本目。
同組2位となる98.5mを飛び終えると、こらえきれずに顔を両手で覆いその場で泣き崩れた。
なんと残酷な光景か。

2つ先輩で、常に沙羅を気遣ってきた伊藤有希には、9年前の世界選手権混合団体に泣きじゃくった自らの姿と重なって見えたのかもしれない。
1つ先輩の佐藤幸椰は100.5mで確実に繋ぎ、同期の小林陵侑が圧巻のHSジャンプを繰り出した。

終わってみれば、1本分の得点がないにも関わらずメダルまで8.3pt差に迫る4位。
憔悴しきった状況ながらも最後までやるべきことを果たした高梨沙羅と、その窮地を救おうとより強固に一丸となった伊藤有希、佐藤幸椰、小林陵侑らの頼もしい面々。

日本ジャンプ史に残る素晴らしい戦いだったと思う。
4人の選手たちに心から拍手を贈りたい。

混合団体 日本の全成績
2012.08.14GPクーシュベル1位伊藤、高梨、葛西、渡瀬
2012.08.18GPヒンターツァルテン2位高梨、岩渕、清水、渡瀬
2012.11.23WCリレハンメル2位伊藤、渡瀬、高梨、竹内
2013.02.24WSCバルディフィエンメ1位伊藤、伊東、高梨、竹内
2013.07.27GPヒンターツァルテン1位伊藤、葛西、高梨、渡瀬
2013.08.14GPクーシュベル2位伊藤、渡瀬、高梨、竹内
2013.12.06WCリレハンメル1位伊藤、伊東、高梨、竹内
2015.02.22WSCファルン3位高梨、葛西、伊藤、竹内
2017.02.26WSCラハティ3位高梨、竹内、伊藤、伊東
2018.09.08GPチャイコフスキー1位丸山、佐藤幸、高梨、小林潤
2019.03.02WSCゼーフェルト5位伊藤、佐藤幸、高梨、小林陵
2019.07.27GPヒンターツァルテン2位丸山、小林潤、高梨、佐藤慧
2021.02.20WCルシュノフ4位丸山、佐藤幸、高梨、小林陵
2021.02.28WSCオーベルストドルフ5位伊藤、佐藤幸、高梨、小林陵
2021.09.12GPチャイコフスキー4位櫻井、渡部陸、宮嶋、伊東
2022.01.28WCヴィリンゲン5位伊藤、中村、岩渕、佐藤幸
NEWOWG北京5位高梨、佐藤幸、伊藤、小林陵

試合後、失格問題は各方面で物議を醸している。
SNSなどでは、日本以外にも3つの国が失格となったことから、いつものような「日本つぶし」というような声は聞かれない。
一方で、飛んだ後に検査するのではなく事前に検査するようルールを改めるべきだという意見が割と多く見られた。

個人的には、ルールそのものについては、改善の余地がまだまだあるとはいえ概ね問題が無いと思っている。今までそれでやってきて、最近ではあまり怪しげなスーツは見られなくなってもいた。
ただ、測定の場面はブラックボックスとなっており、今後は何らかの方法で可視化できないものかとは思う。

その思いをより強くしたのは、オプセットの「スーツの測定はいつもとは全く異なる方法で行われた」という趣旨の発言。
これが事実だとしたら(おそらく事実なのだろうけど)、なぜ今回だけいつもと違う方法が用いられたのか。
そのいつもと違う方法が5人もの失格を生んだ直接的な原因とも思えるので、運営にはこの点について説明責任があると思う。

マテリアルを巡っては、選手サイドと運営側の駆け引きが常に行われているが、シーズンの開幕期や五輪や世界選手権などの大きな大会の前には、重点的に厳しく検査が行われる傾向がある。
そうやって事前にくぎを刺し違反のない状況を作ったうえでシーズンや大きな大会を迎えようとするわけだ。

今回それが五輪中に行われたのだとしたら、やはり適切ではなかったと思う。
でも、はたしてそういう意図のあるものだったのだろうか。
それならば五輪前にやっておくべきだし、やる機会もあったはず。それに女子だけというのも不可解だ。

いずれにしても、このような形で五輪の試合が行われたことは返す返すも残念。
世界中に、この競技がネガティブな印象として発信されてしまったことに憤りも感じる。
それが率直な気持ちだ。


SNSで飛び交う様々な意見の中には、スーツのルールを知らないが故の誤解も多いと感じる。
そこで僭越ながらスーツのルールについて書いた過去の記事を紹介したい。
2020/21ヒンツェンバッハでのWCで高梨沙羅がスーツ違反で失格になった時の記事。

ここからは、ちょうど1年程前のブログ記事の引用です。
今回のスーツ失格に対して直接言及したものではありません。

さて、沙羅の失格をめぐって何やら騒がしい声がチラホラ聞こえてくる。曰く「日本つぶしだ」と。
予選で伊藤有希が同じくスーツで失格となっていることが余計にそういう声を生じさせているのだろう。

スキージャンプでは、着用するスーツ、スキー板、ブーツ等の道具にそれぞれ細かいルールが定められている。
例えばスーツであれば、実際の体のサイズよりも大きめのサイズのものを着用すれば、その部分に風を受けて凧のように浮力が生じることになる。
ルールでは、これを禁じているわけだ。

選手は事前に身体のサイズを登録しており、飛ぶ前に必ずスーツを着用した状態で登録したサイズとの差異がないかのチェックを受ける。そこで規定に合わなければ失格となる。
また、飛んだ後にも無作為に抽出された選手がチェックを受ける。そこでは、スーツの通気量などもチェックを受けることになる。

一つデータを示そう。 2019/20シーズンと、今季ここまでの個人戦の予選と本戦での失格者のデータだ。
ホントはもう数年前までさかのぼって調べたかったのだが、これぐらいあれば十分だろう

2019/20
2019.11.07リレハンメルRUNGGALDIER.E(ITA)SUIT
2020.01.11札幌QEDER.L(AUT)
RUNGGALDIER.E(ITA)
SKI LENGTH
SUIT
2020.01.11札幌AVVAKUMOVA.I(RUS)SUIT
2020.01.16蔵王QCLAIR.J(FRA)SKI LENGTH
2020.01.24ルシュノフQHARALAMBIE.D(ROU)SKI LENGTH
2020.01.31オーベルストドルフQNORSTEDT.A(SWE)SUIT
2020.02.01オーベルストドルフKUEBLER.P-L(GER)SUIT
2020.02.23リュブノQLUSSI.N(USA)SUIT
2020.03.10リレハンメルAVVAKUMOVA.I(RUS)BOOTS
2020/21
2020.12.17ラムサウQHARALAMBIE.D(ROU)SUIT
2021.01.22リュブノQSEYFARTH.J(GER)
PAGNIER.J(FRA)
BRECL.J(SLO)
LUSSI.N(USA)
SUIT
SUIT
SUIT
SUIT
2021.01.24リュブノITO.Y(JPN)SKI LENGTH
2021.01.30ノイシュタット  QRAUTIONAHO.J(FIN)
HESSLER.P(GER)
SUIT
SUIT
2021.01.31ノイシュタットMAKHINIA.I(RUS)
TIKHONOVA.S(RUS)
SUIT
SUIT
2021.02.05ヒンツェンバッハQITO.Y(JPN)
BJOERSETH.T-M(NOR)
MALSINER.L(ITA)
SUIT
SKI LENGTH
SUIT
2021.02.05ヒンツェンバッハTAKANASHI.S(JPN)SUIT

2019/20シーズンの失格者は10人。そのうちスーツの違反は6人。16試合でこの人数というのは、個人的には随分と少ない印象だ。
一方、2020/21シーズンの失格者はここまでで14人。そのうちスーツの違反は12人。今季はまだ5試合だけなのにすでに昨季の数を上回っている。

まず知ってほしいのは、失格はそれほど珍しいことではないということ。このデータで明らかなようにシーズンを通じてそれなりの人数の失格者は毎シーズン必ず生じている。
そして、特定の国や選手だけが失格となっているわけではないこともデータを見れば明らかだ。このデータを見てもまだ「日本つぶしだ」と言える人はいるだろうか。

スキージャンプは非常に繊細なスポーツだ。
スーツの股下が1cm長いか短いか、スキー板が1cm長いか短いかで飛距離が数メートル違ってきたりする。
なので、各国・各選手はルールの範囲内のギリギリを攻めてくる。

実は、沙羅は過去にもスーツの違反で失格になったことがある。

高梨沙羅はスーツ違反で失格。

工藤三郎御大の実況によると、61.0cm必要な股下が0.8cm足りていなかったとのこと。更に、前日と同じスーツだったらしい。

まぁ、測り方次第で0.8cmぐらいの誤差が生じることはあり得るのだろう。
それよりも何よりも、Jスポ元康氏によると、列強各国はスーツの”測定のされ方”も練習を重ね、それ自体も選手の技術の1つと考えられているとか。
つまり、”測り方”だけでなく”測られ方”ひとつで適法にも違法にもなるということがあり得るということ。

2018/19 FISスキージャンプワールドカップ女子個人第2戦リレハンメル

この時は、前日はOKとされた同じスーツが翌日には違反とされた。
今回も、予選ではOKとされた同じスーツが本戦では違反とされた。
まさに、”測られ方”ひとつで適法にも違法にもなってしまうわけだ。

先ほど、「ルールの範囲内のギリギリを攻めてくる」と書いた。
でも、おそらくこれは正しい言い方ではないだろう。
これでは「ギリギリセーフ」を狙っているように聞こえるが、実際にやっていることは「アウトをセーフに見せかける」ことなのではないかと言う気がするからだ。

競技の本質とは違う部分で優劣が決まってしまうみたいで、個人的には全面的に肯定はしたくないという思いはある。
でも、ライバルたちが「アウトをセーフに見せかける」以上は、日本だけ馬鹿正直にやっていては全く勝負にならない。
「アウトをセーフに見せかける」ことで「セーフ」と判定されれば、それはルール上「セーフ」なのだ。

こういう話を知って、スキージャンプにより興味を持つ方もいるだろう。
一方で、幻滅させられたという方もいるかもしれない。
私は、いちファンとして、こういう話も含めてスキージャンプを楽しんでいる。

引用ここまで。


全日本スキー連盟
【スキージャンプ】用品測定方法ガイドライン(2021年6月1 日更新版)