2019/20 FISスキージャンプワールドカップ男子個人第2戦ルカ

失格者5名の乱戦 タンデ連勝 アッシェンバルド初表彰台

2019年11月30日(土)ルカ(FIN)HS142/K120

3rd World Cup Competition

1  ダニエル-アンドレ・タンデ(NOR) 282.5pt
2  フィリップ・アッシェンバルド(AUT) 273.3pt
3  アンツェ・ラニセク(SLO) 272.4pt
 
6  小林 陵侑(土屋ホームスキー部) 267.3pt
17  小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部) 236.4pt
32  佐藤 幸椰(雪印メグミルクスキー部) 103.5pt
35  伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) 99.0pt
43  中村 直幹(東海大学札幌スキークラブ) 79.1pt
59  葛西 紀明(土屋ホームスキー部) 予選落ち

予選リザルト オフィシャル リザルト


 

個人的には相当シラケた試合だ。

 

試合終了時点の暫定結果は、優勝:タンデ、2位:リンビーク(NOR)、3位:ペテル・プレヴツ(SLO)だった。
それを見届けてすぐに寝たが一夜明けてみると結果が変わっていた。
リンビークとプレヴツが失格。アッシェンヴァルトとラニセクが繰り上がって表彰台入りとなっていた。

 

タンデは開幕2連勝。
アッシェンヴァルトは初表彰台。
ラニセクは2戦連続の表彰台。

 

もっとも、朝起きたらこんなことになっているんじゃないかという予感はあった。
1本目でフォルファング(NOR)とヨハンソン(NOR)がスーツの違反で失格。どうやらノルウェーはこの試合に相当攻めたスーツで臨んでいるらしい。そのおかげかどうか、リンビークの2本目などは他者とは全く違う高い飛行曲線を最後まで保っていた。

 

翌朝、公式リザルトを見ると予想をはるかに超える事態となっていた。
まずは案の定リンビークがスーツで失格。
さらには3位だったプレヴツ、10位だったセメニッチ(SLO)がスーツで失格となっていた。

 

失格は結果として全部で5名。ノルウェーが3名。スロベニアが2名だ。
1試合で5名もの失格者が出るということは過去にもなかったわけではないだろう。
ただ、この試合が過去の事例と様相を異にするのは、5名全員が飛び終えた時点で上位につけていたということだ。
暫定2位と3位だったリンビークとプレヴツは言うに及ばず、フォルファングとヨハンソンも失格がなければ1本目を上位で折り返す順位につけていた。

 

つまりだ。この試合は失格者たちを中心に上位争いが繰り広げられていたともいえる。
こういう試合は過去10年ぐらいを振り返っても記憶にない。
眠い目をこすりながらも彼らの大ジャンプにワクワクし、初表彰台に驚嘆し、久しぶりの表彰台に安堵しつつ試合に見入っていたというのに…

 

失格になった5名はいずれもスーツの生地の通気性の違反だったようだ。
他の45名の選手には違反も失格もなかったのだから、この試合のすべてを否定してはいけないとは思う。
ただ、違反となった生地はチーム内全体で使用されていたのではないかという疑念はぬぐえず、もしそうならばチーム内で失格者とそうでない者に分かれたのは何故か。運?
う~ん… 最終リザルトを見てもなんだかすっきりとしない思いが残る。

 

ノルウェーもスロベニアもギリギリを攻めていたのだとは思う。
シーズン序盤のスーツ違反祭りはある意味毎年の恒例行事。チームは今季はどこまでがギリギリセーフなのかを探るし、FISは今季も厳しくいくぞという姿勢を示す。
ノルウェーもスロベニアもこの試合は捨ててもいい前提でFISの基準を探ったのかもしれない。
毎年恒例のスーツ違反祭りは必要悪ではあるのかもしれないが、そんな試合を見せられるファンはたまったものじゃない。

 

失格の場合は次戦以降の数試合のエントリーを認めないなどの厳罰が必要なのかも。
そうすれば、リスクを冒してまでギリギリを攻めるようなことはしにくくなるはず。
いずれにしても、私はスーツの出来を競う品評会が見たいわけではない。

 

マテリアルの進化が、この競技を進化させてきたことは疑いないことだとは思う。
新たなマテリアルの開発が新たな技術を生み、新たな技術がまた新たなマテリアルを欲する。
技術面だけでなく安全面からも、マテリアルの進化は欠かせないものだと思う。
ただし、これらはあくまでもルールの範囲内で行われるべきこと。
残念ながら、今季は(今季も?)スーツ違反が多かった。

最終戦でもタンデが失格となった。
シュトックルが、他チームへのスーツに対し物申すことが多いため、意趣返し的にノルウェーが狙い撃ちされているという声もあるらしい。
一方で、いちいち全て取り締まっていては競技が成り立たないので見逃されている場面も多いとも聞く。
仮に後者の話が本当だとしたら?
見逃されたスーツで勝敗が決するなんてことは、マテリアルの進化でも技術革新でもない、ただの茶番だ。
来季はスーツチェックが厳しくなるという声もあるようだが、それは昨季も今季も言われていた。FISは本気を見せた方が良いと思う。

2016/17 FISスキージャンプワールドカップ男子個人第26戦プラニツァ

 

スーツは、カッティングの仕方や縫製、あるいは着用の仕方により結果に大きな影響を及ぼすことは周知の事実。
残念ながら、これらがルールの範囲を逸脱して行われているケースもあるのでは? と、まことしやかに囁かれたことは、昨シーズンも一度や二度のことではなかった。

そのスーツに関して、1か月ほど前のSportsnaviに折山淑美氏による横川ヘッドコーチへのインタビュー記事が載ったので、触れておきたい。

横川コーチによると、昨シーズンに関しては生地そのものにも問題があったというのだ。
曰く、「生地はマグロと一緒で、赤身の部分もあればトロの部分もある。その一番良いところで作らないとダメ」なのだそうだ。
トロがドイツ、オーストリア、ポーランドに行って、日本、ノルウェー、スロベニアは赤身だったとも語っているが、その配分が意図的なものであったのかどうかについては言及していない。

う~ん・・・ これって日本チームの独自の見解なの? 
もちろん、独自の見解だとしても、何らかの裏付けがあってのことだろうから限りなく事実に近いハナシなんだろうけれど。
そうだとして、日本はこの件について何かアクションを起こしたのだろうか?
例えば、生地メーカー(生地を作っているのは世界で2社だけらしい)に対して、あるいはFISに対して、「問い質す」ということを行ったのだろうか?

でも、生地メーカーにしてみれば、仮にトロの行き先と赤身の行き先を意図的に決めていたのだとしても「意図的でした」なんて認めるはずもない。
認めたとしたらとんでもないスキャンダル。そもそも、トロと赤身があることすら認めることはないんじゃないかとも思う。
そうなると、意図的かどうかは別としても、今後も日本は赤身を掴まされることだってあり得るわけで。

さらに言うと―
「最終戦で葛西が表彰台に上がった時のスーツはシーズンで一番素材の良い物を使えたスーツでした」とも横川コーチは語っており、必ずしも赤身ばかりを掴まされてたわけではないようだけれど、そうだとすれば、日本人選手間でもトロの選手と赤身の選手が生じるということになるじゃないのかな?
だとしたら、当然トロは代表組に優先的に割り当てられることになるであろうことは想像に難くない。
そうすると代表入りを狙う国内組の選手たちは最初からとんでもないハンデ戦を強いられることになる。

カッティングや縫製の工夫はマテリアル競争の1つと捉えることができるとしても、生地そのものに差異があるとなると、それが意図的なものでなかったとしても、やはり著しく公平性を欠くように思う。
来るべきシーズンからは、生地メーカーには品質に差異のないよう各国に生地を供給してほしいと切に望む。
そのためには、日本だけではなく、少なくともノルウェーやスロベニアを巻き込んでの共通見解として、この件を「問い質す」ことが必要なのではないでしょうかね。

2017 FISグランプリジャンプ男子個人第9戦クリンゲンタール

 

Sportsnaviに掲載された横川ヘッドコーチへのインタビュー記事は、特にスーツに関する部分がたいへん興味深い内容だったので、先日、当ブログでつらつらと触れてみた。(こちら
すると今度は、24日の北海道新聞でも横川コーチのインタビュー記事が紹介された。
またまたスーツに関して語っている部分があるので触れておきたい。

スーツの生地については、「同じ種類の生地でも、質が良い出来上がりのものと悪いものがある」という点は、Sportsnaviでも語っていたとおり。Sportsnaviでの横川コーチは、これを「トロと赤身」に例えていた。
今回注目したいのは、「日本は良い生地を入手する部分で後れを取っていた」と語っている点。
この「後れを取っていた」という過去形の言い回しは、【日本は‟今や”良い生地を手に入れることができる】ということを示唆しているように私には受け取れる。

そもそも昨シーズンの日本は、生地にトロと赤身があるということにさえ気付くのが遅れたのだろう。気づいた時には既に後手に廻ってしまっていて、結果として赤身を掴まされたままにシーズンが進んでしまったということなのだろう。
でも、今や日本はトロを手に入れる術を知った。良い生地さえ手に入れば、スーツを作る技術は世界に負けない。こうして作られたスーツであれば、葛西も伊東も竹内も昨シーズンのような成績で終わるはずがない- 
憶測を交えてはいるが、横川コーチの言わんとすることはこんなところか

この通りだとすれば、悪夢のようだった昨シーズンに対して、どうやら新シーズンは期待して良さそうではある。

ただ、前回も書いた通り、スーツのカッティングや縫製の工夫はマテリアル開発競争の1つと捉えることができるとしても、生地そのものに差異があるとなると、それが意図的なものでなかったとしても、やはり著しく公平性を欠くように思う。
やはり個人的には、全ての国・全ての選手が同じ品質の生地を用いたスーツを着用し競技が行われることを切に望みたい。

だって、生地の良し悪しで勝負が決まる様なんて誰も見たくはないでしょ?

2017白馬サマーノルディックフェスティバル ジャンプ記録会