二階堂蓮が2度目の全日本ラージヒル制覇 丸山希は4年越しのリベンジで初制覇

女子組
| 1 | 丸山 希(北野建設SC) | 262.4pt |
| 2 | 宮嶋 林湖(松本大学) | 251.9pt |
| 3 | 一戸 くる実(雪印メグミルクスキー部) | 232.0pt |
| 4 | 高梨 沙羅(クラレ) | 230.0pt |
| 5 | 伊藤 有希(土屋ホームスキー部) | 225.3pt |
| 6 | 勢藤 優花(オカモトグループ) | 222.5pt |
| ※ 表彰は全日本選手権は3位まで、NHK杯は6位まで | ||
男子組
| 1 | 二階堂 蓮(日本ビールスキー部) | 290.9pt |
| 2 | 小林 朔太郎(雪印メグミルクスキー部) | 284.4pt |
| 3 | 内藤 智文(山形市役所) | 281.3pt |
| 4 | 葛西 紀明(土屋ホームスキー部) | 260.1pt |
| 5 | 佐藤 幸椰(雪印メグミルクスキー部) | 258.1pt |
| 6 | 小林 潤志郎(Wynn.) | 250.4pt |
| ※ 表彰は全日本選手権は3位まで、NHK杯は6位まで | ||
オリンピックシーズンの「冬」が始まった。
2015年(第94回)から秋開催となった全日本選手権は、当初アイストラックを使用して冬仕様を維持していたが、気温の影響でトラックが溶ける事態が発生。
これを受けて2019年(第98回)からはサマートラックに変更され、以降は「夏の締めくくりの大会」として定着していた。
しかし今年(第104回)は7年ぶりにアイストラックで開催。再び「冬の始まりの大会」という印象に。
理由は不明だが、開幕を目前に控えたワールドカップ(WC)の派遣選手にとっては冬仕様での実戦経験が積めるので理に適った選択だと思う。
さらに、今年の違いとして挙げられるのが選手選考に関する部分。
全日本選手権の成績はWC開幕メンバー選考に繋がる旨が、2018年頃から『選考基準』として明記されるようになった。つまり、その称号に相応しい “ご褒美” が用意されるようになったわけだが、今年は少し様相が異なる。
女子はこの試合での成績がWC選考に直接繋がるが、男子は直接繋がらない。
その代わりに男子はコンチネンタルカップ(COC)の選考に繋がる。
正直、男子にとっては “ご褒美”の格がワンランク落ちてしまった印象は否めない。
でも、“ご褒美” の有無や格にかかわらず、ここで勝てば全日本チャンピオンとして歴史に名を刻むことになることには違いない。
それ自体が最高のステータスだ。
女子組






女子のWC開幕メンバーの選考基準は以下の通り。
- 対象大会:リレハンメル/ファルン/ヴィスワ
- 選考人数:6名
- 選考基準:
- 2024/25 WCスタンディングス上位2名
- 2025/26 SGP スタンディングス上位3名
- 全日本選手権LHジャンプポイントの上位1名の選手
- WC出場資格を有している選手
- 新ルールに準ずるスーツを使用した選手に限る
- 1.と 2.で選考された選手は除く
- 特記事項:
- 状況に応じてコーチ会議を行い、HCが最終決定する
1.と 2.の基準により次の5名がWC開幕メンバーに当確している。
そして、3.の基準により残り1名がこの日の試合で決まることになる。
- 高梨沙羅、伊藤有希
- 丸山希、佐藤柚月、勢藤優花
- この試合で上記5名以外の最上位1名
既にWC開幕メンバーに当確している丸山希にとって、この試合は純粋に全日本チャンピオンの称号を手に入れるための戦いだった。
それを見事にやってのけたわけだが、ただ、この優勝はそれ以上の大きな意味を持つ。
丸山は、大倉山で開催された2021年のこの大会(第100回大会)で転倒。
左膝前十字靱帯損傷、外側半月板損傷および大腿骨腓骨骨挫傷という極めて大きな怪我を負ってしまい、代表入りが有力視されていた2022北京五輪への道が断たれた。
恐怖心に打ち克ち、五輪を前に同じ大会で優勝するという形で、4年の年月を掛けてリベンジを果たした大きな勝利。
この夏はグランプリ(GP)で初優勝し総合優勝にも輝いた。そしてここに初の全日本タイトルを獲得。
初の五輪へ向けて順風満帆だ。
一方、2位争いはWC開幕メンバーの残り1枠を懸けた争いとなった。
この夏のGPで初優勝を遂げるなど目覚ましい活躍を見せた一戸くる実と、白馬で連勝するなど国内で爪を研いできた宮嶋林湖の息詰まる決戦は、2本目に圧巻のパフォーマンスを見せた宮嶋の勝利となった。
この結果により、宮嶋林湖が最後の1枠を勝ち獲りWC開幕メンバー入りに当確。
ただ、一戸くる実にも(そしてこれに続く結果を出した選手たちにも)WCクリンゲンタール以降の派遣の可能性が残る。めげずに頑張ってほしい。
22歳と21歳の新鋭が表彰台に立った一方で、高梨沙羅と伊藤有希は、2021年(第100回大会)で全日本選手権に女子ラージヒルが新設されて以降続いていた表彰台を初めて逃した。
これを持って直ちに世代交代が起こったと言うつもりはないが、日本女子の若きタレント達は確実に、そして猛烈な早さで成長を遂げていることは疑うべくもない。
全日本選手権LH【女子】歴代表彰者
| 大会 | 優勝 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 第100回 | 高梨 沙羅 | 伊藤 有希 | 小林 諭果 |
| 第101回 | 高梨 沙羅 | 伊藤 有希 | 勢藤 優花 |
| 第102回 | 高梨 沙羅 | 伊藤 有希 | 丸山 希 |
| 第103回 | 伊藤 有希 | 高梨 沙羅 | 丸山 希 |
| NEW | 丸山 希 | 宮嶋 林湖 | 一戸 くる実 |
男子組






女子が表彰台争いがそのままWCの開幕メンバー争いになったのに対し、男子は表彰台争いとCOC選考をめぐる異なる二つの争いが繰り広げられたという印象。
前述の通り、男子においてこの試合の結果はWC選考に直接は繋がらない。
- 対象大会:リレハンメル/ファルン/ルカ/ヴィスワ/クリンゲンタール/エンゲルベルク
- 選考人数:5名(クォータ数によって変動)
- 選考基準:
- 2024/2025 スタンディング上位3名の選手
- Olympic Winter Games2026 Allocation List SJ 上位の選手
- 特記事項:
- COC出場選手と入れ替えを行う場合がある
- WCクォータおよび2026OWGクォータの確保を優先する場合、選考基準に沿わずコーチ会議を行い、HC判断で選手を決定する
1.と 2.の基準と夏のCOCの結果による追加枠によって、以下の6名がWC開幕メンバーに当確している。
- 小林陵侑、二階堂蓮、中村直幹
- 小林朔太郎、佐藤幸椰
- 内藤智文(追加枠)
このうち小林陵侑は体調不良を理由に棄権、中村直幹はエントリーがなかったが、残る4名は実力をいかんなく発揮。
特に表彰台の3名は格の違いを見せつけた印象だ。
二階堂蓮は、2年ぶり2回目の全日本選手権ラージヒル制覇。
NHK杯としては、2022年(第64回大会)、2023年(第65回大会)に続き3度目の優勝。
2位の小林朔太郎は、全日本選手権ラージヒル、NHK杯ともに初の表彰台。
3位の内藤智文は、全日本選手権ラージヒルで3大会連続の3位表彰台。
NHK杯としては、2022年(第64回大会)2位、2023年(第65回大会)3位、2024年(第66回大会)2位に続き4年連続の表彰台。
全日本選手権LH【男子】歴代表彰者(過去10大会)
| 大会 | 優勝 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 第94回 | 作山 憲斗 | 葛西 紀明 | 小林 陵侑 |
| 第95回 | 竹内 択 | 作山 憲斗 | 葛西 紀明 |
| 第96回 | 葛西 紀明 | 小林 潤志郎 | 小林 陵侑 |
| 第97回 | 伊東 大貴 | 中村 直幹 | 佐藤 慧一 |
| 第98回 | 小林 陵侑 | 岩佐 勇研 | 竹内 択 |
| 第99回 | 佐藤 幸椰 | 伊東 大貴 | 小林 潤志郎 |
| 第100回 | 小林 陵侑 | 佐藤 幸椰 | 小林 潤志郎 |
| 第101回 | 小林 陵侑 | 山本 涼太 | 二階堂 蓮 |
| 第102回 | 二階堂 蓮 | 中村 直幹 | 内藤 智文 |
| 第103回 | 小林 陵侑 | 二階堂 蓮 | 内藤 智文 |
| NEW | 二階堂 蓮 | 小林 朔太郎 | 内藤 智文 |
もう一つの戦いであるCOC派遣2枠の争奪戦。
- 対象大会:ルカ/エンゲルベルク
- 選考人数:4名
- 選考基準:
- OWG Allocation List SJ 上位 1名 ※5 WORLD CUP派遣選手を除く
- 2025-2026 COC スタンディング上位1名
- 下記選手で全日本選手権LH大会を選考会とし、上位2名を選考する
- OWG Allocation List SJ 上位 の選手 ※5 WORLD CUP派遣選手を除く
- COCに参加資格のある全ての選手
- 特記事項:
- WC出場選手と入れ替えを行う場合がある
- WCクォータおよび2026OWGクォータの確保を優先する場合、選考基準に沿わずコーチ会議を行い、HC判断で選手を決定する
COCの派遣メンバーは、1.と 2.の基準によって次の2名が既に当確しており、3.の基準による2名がこの試合で決まることになる。
- 佐藤慧一
- 小林潤志郎
- この試合でWC派遣6名と上記2名以外の最上位2名
ミラノ・コルティナ五輪を目指す上では、ここでCOC派遣を勝ち獲り、そこでピリオド総合3位内に入ればWCの追加枠を掴み取ることができ希望が繋がる。
しかも、COCルカとエンゲルベルクは各々で単独のピリオドを形成しているので、追加枠を得るチャンスは2回あることになる。
WC札幌大会の開催国枠から大逆転を目指す方法も残されてはいるが、一撃必殺の好成績が必要となるので神がかり的な奇跡を願うことになってしまう。
なので、国内の選手たちにとってはこの試合で何としてでもCOC派遣を掴み獲らなければならない。
ヒリヒリとした緊張感の中、見事にこれを掴み獲ったのは葛西紀明と渡部陸太(東京美装グループスキー部)
前日のトークショーでも大事な場面では緊張すると語っていた葛西紀明。
この日も「鼓動がドキドキって鳴るのも感じていた」らしいが、「さすがレジェンドだ(笑)」と自ら語る通り、ここ一番の強さを見せて9度目の五輪に望みをつないだ。
竹内択、中村優斗、藤田慎之介らが生き残りを懸けて挑むなか、残る1枠を掴んだ渡部陸太。
1ヵ月前の鹿角サマーで優勝しているとはいえ、失礼ながらこの結果は意外だった。
存分に暴れてきてほしい。
表彰式


NHK杯としては、2022年、2024年に続いて開始時刻が午後に設定されたこの大会。
その理由がMLBワールドシリーズとの生中継のバッティングを避けるためであるかどうかは知らないが、結果オーライではあったと思う。
大倉山は、夕方になるといつもの向かい風が弱まり追い風に変わっていく。
この日も女子1本目こそ向かい風だったが、男子1本目以降は追い風。数値上はそこそこの強弱が生じてはいるが、いつもに比べれば体感上はいたって穏やかだった。
全日本チャンピオンを決める試合であり、かつ、五輪シーズンの代表選考が懸かる試合。
その試合が、条件のアタリハズレの少ない公平な実力勝負となって何よりだ。
ただ、暗くなると私の腕と機材では撮影は困難を極め、お恥ずかしい写真の出来となってしまうことがなんとも悩ましい…

SAJからの公式発表はない(11/6時点)が、WC開幕とCOCのメンバーは次の通りになるものと思われる。
- 対象大会:リレハンメル/ファルン/ヴィスワ
- 対象大会:リレハンメル/ファルン/ルカ/ヴィスワ/クリンゲンタール/エンゲルベルク
- 対象大会:ルカ/エンゲルベルク
さて、五輪シーズンのWC開幕メンバーはこうして決まったが、五輪出場選手は実のところまだ一人として決まっていない。
それどころか、日本の出場枠数(何人出場できるのか)すら決まっていない。
ミラノ・コルティナ五輪スキージャンプの国別の出場枠数の最大は4枠。FISが定めた基準によって各国の出場枠数が決まる。
その枠数に対し、どの選手を選考するかは各国がそれぞれの方法で決めることになる。
では、SAJでは五輪代表の派遣基準をどのように定めているか。
それを定めたものが、下記の「オリンピック派遣推薦基準(個人種目)」
2024/2025~2025/2026シーズンのFISワールドカップ、サマーグランプリまたは世界選手権において、基準日までに下記の成績を収めた選手を選出する。
- 8位以内の成績を1回以上
- 10位以内の成績を2回以上
- 15位以内の成績を3回以上
- 基準日時点の2025/2026シーズン ワールドカップスタンディングス上位者
現時点で❶、❷、❸の基準を満たしているのは次の選手たち。
- 高梨沙羅、丸山希、一戸くる実、岩佐明香、伊藤有希、佐藤柚月、勢藤優花
- 小林陵侑、二階堂蓮、佐藤慧一、中村直幹、小林朔太郎、小林潤志郎、佐藤幸椰
まだこの基準を満たしていない選手は、2026年1月19日までにこれをクリアしなければならない。
そして最終的には、これを満たした選手の中から2026年1月19日時点のWCスタンディング上位者が五輪代表に選出されることとなる。
つまり、五輪代表が決まるのは(さらに、各国の出場枠数が決まるのも)2026年1月19日。
よって、前述の通り、五輪出場選手はまだ一人として決まっていない。
なお、各国の出場枠数がどうやって決まるのかについては、下記の記事を参考にされたい。


