小林陵侑 全日本選手権初制覇 高梨沙羅 3年ぶり大会V
2019年10月27日(日) 札幌市 大蔵山ジャンプ競技場 HS137/K123
NHK杯 女子組(ゲート1本目16、2本目18)
1 | 高梨 沙羅(クラレ) | 227.2pt |
2 | 伊藤 有希(土屋ホームスキー部) | 224.7pt |
3 | 丸山 希(明治大学) | 111.4pt |
全日本選手権 兼 NHK杯 男子組(ゲート1本目10、2本目10)
1 | 小林 陵侑(土屋ホームスキー部) | 273.5pt |
2 | 岩佐 勇研(東京美装グループスキー部) | 265.3pt |
3 | 竹内 択(team taku) | 260.7pt |
4 | 中村 直幹(東海大学札幌スキークラブ) | 257.1pt |
5 | 小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部) | 244.8pt |
6 | 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) | 242.4pt |
スキージャンプは、アプローチ、サッツ、フライト、ランディングの4つのパートで構成されており、そのうちアプローチとサッツが近年ではより重要となってきていると言われている。
でも、私がいつも観戦しているランディングバーン横からはアプローチとサッツは全く見えない。
ひょっとして私は、この競技の半分しか楽しめていないのではないかと、気分的にはいつも何かモヤモヤとしたものが残ってしまう。
ところが今年のNHK杯 兼 全日本選手権LHは生中継が奢られた。
いつものテレビ局杯であれば大半の選手がバッサリとカットされてしまう超ダイジェスト録画中継なのだが、この日は全選手・全飛躍が放送される。
帰ってから録画していた放送を見たが、普段はカットされてしまう選手たちのアプローチとサッツを見ることができたのはとても新鮮で楽しかった。
それにも増してうれしいことは、WCメンバー以外にもスゴイ選手たちがたくさんいることを普段ジャンプ場に行く機会がない方達にも知ってもらえたこと。
しかも、この日の男子組はハイレベルでスリリングな中々の好ゲームだったので、このような試合の全貌が余すところなく生中継されたこと自体がとてもうれしい。
ハイレベルでスリリングな好ゲームの中心にいたのは竹内択と岩佐勇研の二人だ。
竹内は前日のNHでは1.5pt差で惜しくも表彰台を逃したが4位入賞。その後に行われたLH予選では堂々のトップ通過。そしてこの日は見事に表彰台へ。
元々あまり闘志を表に出すタイプの選手ではないけれど、プロに転向しての最初のシーズンインに向けての並々ならぬ気迫が十分に伝わってきた。
一方、トレードマークとも言える派手なガッツポーズでいつも闘志を全面に出してくる岩佐勇研は、130mオーバーを2本揃えていつも以上にド派手なガッツポーズが炸裂。
2016年白馬NBS杯で高校生ながら葛西紀明、伊東大貴、竹内択らのフルメン相手に優勝という離れ業を演じているけれども、シニアとしてはこれまで表彰台がなかったはず。
というのも、勇研は高校時代から常に海外を転戦しており国内戦に出場する機会が限られていたせいもあると思う。
同世代ではだれにも負けないぐらいの海外経験を積んできた勇研。その底知れぬ才能にいよいよ結果が追い付き始めた。
NHK杯 女子組
1 高梨 沙羅(クラレ)
2 伊藤 有希(土屋ホームスキー部)
3 丸山 希(明治大学)
4 岩渕 香里(北野建設)
5 勢藤 優花(北海道ハイテクアスリートクラブ)
6 茂野 美咲(CHINTAIスキークラブ)
全日本選手権 兼 NHK杯 男子組
1 小林 陵侑(土屋ホームスキー部)
2 岩佐 勇研(東京美装グループスキー部)
3 竹内 択(team taku)
4 中村 直幹(東海大学札幌スキークラブ)
5 小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部)
6 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部)
小林陵侑は、全日本選手権初制覇。NHK杯は2連覇。
試合前に、130mを超える大ジャンプで観客を沸かせたいと抱負を語っていたが有言実行を果たした。
高梨沙羅のNHK杯優勝は3年ぶり4度目。
最初に優勝した2012年大会ではまだ中学生だったことに今更ながら驚く。
好ゲームだった男子に対して女子がそうだったとは言い難い。
たしかに、1.1pt差の僅差で折り返し、2.5pt差で逆転した高梨沙羅と伊藤有希のマッチレースはヒリヒリと胸が締め付けられるほどの緊張感があり鳥肌が立つほどに面白かった。
けれども3位以下は別次元。あと2本余計に飛ばないと追いつけないほどの点差が付いてしまった。
点差が付くのは実力差があるので仕方ないとしても、ラージヒルなのに上位二人以外は誰も100mに届かない様は、大ジャンプを期待して集まった観客とテレビの前の視聴者の目にどう映ったか。
国内戦女子組に付きまとう”沙羅ちゃんゲート問題”は、実はけっこう深刻な問題だと思う。
表彰式
女子組
女子組最長不倒賞 高梨 沙羅(131.0m サマーヒルレコード)
男子組
男子組最長不倒賞 小林 陵侑(135.5m)
不調のどん底に苦しんできた葛西紀明は7位。
前日の予選を9位で通過し、試合前の試技でも128.5mを飛んだ。
シャラートの助言で、ここ数シーズ悩まされ続けてきたスリップ現象に改善が見られてきているらしい。
一筋の光明が差してきたか。
この試合のすぐ後に、WC 2019/20シーズン序盤戦に派遣されるメンバーが発表された。
- 男子:小林陵侑、小林潤志郎、佐藤幸椰、伊東大貴、葛西紀明、中村直幹
- 女子:高梨沙羅、伊藤有希、丸山希、勢藤優花、岩渕香里
この夏全く成績を残せていない葛西紀明が選ばれ、逆にGP総合7位の佐藤慧一が選ばれていないことに驚きと不満の声もチラホラ。
しかしこれ、9月5日に全日本スキー連盟から発表済みの「2019/2020 FIS ワールドカップ派遣選考基準」に則って選ばれているだけのこと。だから、驚いた方も不満を持った方も一旦落ち着いてほしい。
この日行われた全日本選手権大会ラージヒルではWF/GFは使用されていない。
よって「前シーズンWCランキング上位からクォーター数」によって選ばれることになると読み取れる。なお、クォーター数は6枠。
で、下記が前シーズンのWCランキング。数字は獲得ポイント数。
- 小林 陵侑 2,085
- 小林 潤志郎 335
- 佐藤 幸椰 316
- 伊東 大貴 145
- 葛西 紀明 88
- 中村 直樹 72
- 佐藤 慧一 13
- 竹内 択 9
ご覧の通り、選考基準通りにWCランキング上位6人が選出されており、順当に選ばれたと言える。
なお、この選考基準は、昨年の「2018/2019 FIS ワールドカップ派遣選考基準」と全く同一の内容であり、特定の選手に忖度して急遽作られた基準ということでは決してない。
個人的には、おかしな作為が介入することなく当初定めた選考基準通りに選出されたことをむしろ最大限に評価したい。
ただし、過去の実績ではなく現状で勢いのある選手を選ぶべきという意見にも大いに賛同できるので、現状の選考基準で本当に良いのかどうか常に見直していく姿勢は必要だとは思う。
それよりももっとおかしなことがある。
選考基準の1つである「全日本選手権大会ラージヒル優勝者」に「ウィンド・ゲートファクターを使用した場合のみ適用」という条件が付く点だ。
全日本選手権は1998年第76回大会以降は札幌と白馬で隔年開催されている。(注1)
2015年第94回大会(札幌)から秋開催となり、2016年第95回大会ラージヒル(白馬)で全日本選手権としては史上初めてWF/GFが採用され、2018年第97回大会(白馬)でもノーマル・ラージ共にWF/GFが採用されている。
一方で、札幌開催時は2017年第96回大会のノーマルだけ何故か採用されたが他は採用されていない。
- (注1)ただし、2016年第95回大会ノーマルヒルのみ蔵王で開催
秋開催となってからの全日本選手権ラージヒルの状況 | ||
年・回 | 会場 | WF/GF |
2015年 第94回 | LH 大倉山 | なし |
2016年 第95回 | LH 白馬 | 採用 |
2017年 第96回 | LH 大倉山 | なし |
2018年 第97回 | LH 白馬 | 採用 |
2019年 第98回 | LH 大倉山 | なし |
全日本選手権大会ラージヒル優勝者という選考基準に、「ウィンド・ゲートファクターを使用した場合のみ適用」という条件が付くということは、白馬ラージヒルで優勝した場合はWC開幕メンバーの選考対象となるけれど、大倉山ラージヒルで優勝した場合は選考対象とならないということになる。
これだと全日本選手権ラージヒル優勝の価値が、白馬と大倉山で異なることになってしまい極めておかしなことのように思える。
昨年、白馬ラージヒルで優勝したのは伊東大貴。前シーズンWCランキングは6番目だった。
大貴はWC開幕メンバーに選出されたが、「前シーズンWCランキング上位からクォーター数」で選ばれたのか、「全日本選手権大会ラージヒル優勝者」として選ばれたのか、あるいはその両方で総合的に判断されたのかはわからない。(その時の記事)
が、どちらの選考基準も満たしていた為に、大貴が選出されたことに異論をはさむ者はいなかった。
しかし、今日の試合でもしも岩佐勇研が優勝していたらどうなっていたのだろう?
WF/GFは採用されておらず、前年のWCポイントも持っていないので選考基準を全く満たしていないことになる。
でも、ここがもし白馬だったら「全日本選手権大会ラージヒル優勝者」として選考基準を満たしていたことになる。
「ウィンド・ゲートファクターを使用した場合のみ適用」という条件を選考基準に加えているということは、裏を返せばWF/GFを使用しない試合は選考に値しないと言っているようにも聞こえる。
つまり、SAJ自身がWF/GFを使用しない試合を一段下に見ているということではないのか?
ならば早いところWF/GFを採用して一段上に引き上げればよい。
白馬では2014年頃から国内試合でWF/GFが採用されている。
一方で札幌とその他の会場では採用されていない。
全ての会場にWF/GFを導入しろとは言わないが、少なくとも全日本選手権はどの年であってもどの会場であっても同じ条件で行われるべきだと思う。
それが、WCメンバー選考に直結する試合であるのならなおのこと。