第61回雪印メグミルク杯ジャンプ大会 【少年組・成年組】

渡部弘晃 WC派遣を決めるV 二階堂連は30pt差を逆転

2020年2月11日(火・祝) 札幌市 大倉山ジャンプ競技場 HS137/K123

少年組(ゲート1本目13、2本目10)

1  二階堂 蓮(下川商業高校)  158.2pt
2  大井 駿(札幌日本大学高校)  150.0pt
3  竹花 大松(東海大学付属札幌高校) 144.6pt
 
4  工藤 漱太(下川商業高校)  142.8pt
5  小林 龍尚(盛岡中央高校)  95.6pt
6  楢木 遊太(札幌日本大学高校)  59.0pt

公式リザルト

成年組(ゲート1本目13、2本目10)

1  渡部 弘晃(東京美装グループ)  258.7pt
2  伊東 大貴(雪印メグミルク)  247.8pt
3  葛西 紀明(土屋ホーム) 247.7pt
 
4  岩佐 勇研(東京美装グループ)  236.9pt
5  駒場 信哉(東京美装グループ)  227.6pt
6  栃本 翔平(雪印メグミルク)  218.7pt

公式リザルト 男子総合リザルト


 

いつもの大倉山に比べると、ほぼ無風と言っていいコンディション。
リザルト上は1本目で平均1.3m/s、2本目で平均1.1m/sなのでそこそこの向かい風はあるのだが、目に見える範囲では風向風速計のペラはあまり動かず、赤いリボンもダラリと真下に垂れ下がっている時間が非常に長かった。
ひょっとするとカンテ付近では状況が違っていたのかもしれないが、おそらく選手はフライト中にほとんど風を感じることはなかったのではないかと思われる。

 

この状況下にしてはややゲートは渋めだったであろうか。
1本目では10人がK点を超えたが、3段ゲートが下がった2本目でK点を超えたのは渡部弘晃、伊東大貴、葛西紀明の3人だけ。
2本ともK点を超えたこの3人が、その当然の帰結として表彰台に立った。

 

それにしても渡部は強い。
この冬の大倉山では失敗はなく完璧なパフォーマンスを続けている。
この日は1本目で最長不倒となる136.0m。ほぼ無風だったと思われる2本目でも誰よりも遠くに飛んだ。

 

今季からアプローチを低く組むようにしたところ、アプローチの際の体のブレが抑えられ、踏切りのタイミングも合うようになったとのこと。
しかし、そのクラウチングは信じられない程に低く、よくあれで踏み切れるものだと思う。
「僕のジャンプは前に前に進むので、ちょっとした風でも飛距離が出る」のだそうだが、実際、低く直線的な軌道は迷いなく前へ前へグイグイ進む。

 

当初から総入れ替えが予定されていたWCルシュノフのエントリーが決まった。
個人的には、今見ていて一番楽しい選手。
ぜひ大暴れしてもらいたい。

 

少年組


1 二階堂 蓮(下川商業高校)

 


2 大井 駿(札幌日本大学高校)

 


3 竹花 大松(東海大学付属札幌高校)

 


4 工藤 漱太(下川商業高校)

 


5 小林 龍尚(盛岡中央高校)

 


6 楢木 遊太(札幌日本大学高校)

 

成年組


1 渡部 弘晃(東京美装グループ)

 


2 伊東 大貴(雪印メグミルク)

 


3 葛西 紀明(土屋ホーム)

 


4 岩佐 勇研(東京美装グループ)

 


5 駒場 信哉(東京美装グループ)

 


6 栃本 翔平(雪印メグミルク)

 


 

二階堂連の1本目は彼にしては珍しく低調なパフォーマンスとなってしまった。
条件が良くなかったとはいえ100.5mで暫定4位。
一方、最大のライバルである竹花大松は、1本目で最長不倒となる117.0mを飛び暫定トップ。二人の間には32.7ptもの大差がついていた。

 

しかし2本目。ゲートが3段下がり誰も100mにすら届かない中、二階堂はただ一人それを軽々と超える112.0mで大逆転。
高校生としてただ一人WC札幌大会開催国枠に選出された実力は伊達じゃない。

 

2本のジャンプを安定して揃えた大井駿が2位。
なお、この日入賞した6名のうち、二階堂蓮、竹花大松、工藤漱太、小林龍尚がジュニア世界選手権の代表に選出されている。(大松はコンバインド代表)

 

表彰式


少年組

 


少年組最長不倒賞 竹花 大松(117.0m)

 


成年組

 


成年組最長不倒賞 渡部 弘晃(136.0m)

 


 

渡部弘晃の低く直線的なフライト同様に、今季同じく低いフライトに大きくモデルチェンジした選手がいる。
内藤智文は、それまでの高く飛び出す豪快なジャンプを封印して、バーンを這うほどに低く直線的なジャンプに取り組んでいる。

 

“バーンを這うほど” というのは物の例えなどでは決してない。この日も、低すぎてスキーのテールが一度バーンにあたって、そこから更に10mぐらい距離を延ばすような場面が見られた。飛距離審判員泣かせのこのような軌道を見せる選手は東輝以来であろうか。
個人的には、内藤には以前のような豪快なスタイルを見せてもらいたい思いもある。しかし、更なる高みを目指すために取ったであろうこの思い切った挑戦を応援したい気持ちの方が遥かに強い。

 

渡部と内藤とは違い、どうしても高く踏み切れないのが葛西紀明。
葛西がスリップ減少に悩まされ不調に陥っていったのは2016/17シーズンのこと。

元康氏がJスポ平昌で解説していたこと(こちら)によると、葛西は踏切でテーブルに上手く力を伝えられず後ろにずるっとスリップしてしまう現象に悩まされていて、クラウチングを浅めに組み40~50%の力で踏み切ることでこれを回避しているという。
これによりスリップ現象は防げるが、強い踏切ができないので飛距離が出ないと。

2016/17 WC個人第24戦ヴィケルスン

 

以来、根本的な解決が見られないままここまで来てしまった。
2017年以降、葛西のジャンプはとにかく低くなった。多少改善されたように見えた試合もあったが、少なくともこの1年ぐらいは驚くほどに低い。そして全く飛距離が出ていない。

 

ところが、先日のTVh杯では低さ自体は改善されていないが飛距離は出た。121.0mと131.0mで4位。
そして今日は131.5mと126.0mで3位。やはり低いままではあったが飛距離は出た。
試合後には、フォームについて「やっと固まってきた」とコメントしたらしい。

 

素人の勝手な憶測にすぎないが、私は、葛西は高く踏み切ることをとりあえずは一旦あきらめたんじゃないかという気がしている。
低くしか踏み切れないのであれば、それを一旦受け入れて、その低さの中でいかに飛距離を出すかという方向に頭を切り替えたんじゃないかと。
先のコメントはつまり、そのような方向性に「やっと固まってきた」ということなのではないかと。

 

実際、ここ2試合で見た葛西のフライトは、終盤でバーンを這うほどの低さを見せるものの、なかなか落ちずにそのままスーッとK点ラインを越えていく。
元々、空中での技術はワールドクラス。低くても伸ばす術は知っているはず。これまでは高く踏み切ろうとしても踏み切れずに全てが噛み合わなくなってしまっていたが、低く踏み切ることを受け入れた今は、アプローチも空中もそれにアジャストして無理なく飛んでいるように見える。

 

この日の1本目で見せたK点を越えてもなおバーンを這うように滑空してグングン距離を伸ばしていく様は、2018年のSTVカップ兼COCでクラニエッツが見せたフライトに匹敵する美しさがあった。

 

渡部、内藤の今後が楽しみであるのと同じく、実は葛西の今後もすごく楽しみにしている。