高梨沙羅 圧勝 小林陵侑 超低速ゲートでヒルレコード
2021年10月30日(土)札幌市 大倉山ジャンプ競技場 HS137/K123
女子組(基本ゲート1本目20、2本目20)
1 | 高梨 沙羅(クラレ) | 271.0pt |
2 | 小林 諭果(CHINTAIスキークラブ) | 204.1pt |
3 | 伊藤 有希(土屋ホームスキー部) | 195.9pt |
男子組(基本ゲート1本目14、2本目11)
1 | 小林 陵侑(土屋ホームスキー部) | 309.4pt |
2 | 小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部) | 283.9pt |
3 | 中村 直幹(Flying Laboratory SC) | 264.2pt |
4 | 佐藤 幸椰(雪印メグミルクスキー部) | 258.5pt |
5 | 栃本 翔平(雪印メグミルクスキー部) | 256.0pt |
6 | 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) | 254.4pt |
全日本選手権LH終了後に、男子の2021/22ワールドカップ序盤戦出場の6名(小林陵侑、佐藤幸椰、佐藤慧一、小林潤志郎、中村直幹、伊東大貴)とコンチネンタルカップ出場の4名(藤田慎之介、清水礼留飛、渡部陸太、二階堂蓮)が発表されている。
北京オリンピックは原則としてこの10名の中から選出されることになっており、WCとCOCのメンバーの入れ替えはあるが、国内組の選手との入れ替えはないと全日本スキー連盟の原田雅彦理事が明言している。
女子は同日での発表が見送られたが、これは全日本選手権LHで怪我を負った丸山希の状態を確認するため。
選考対象試合となる全日本選手権NHが既に終わっていることからも、WC及び五輪の代表選考の大勢はほぼ固まっているものと思われる。
UHB杯は、そこから僅か6日後の試合。
既にWCと五輪の代表が固まっており、ここから漏れた選手たちにとっては、ひょっとしてモチベーションの置き所が難しい試合なのかもしれないとも思ったが、おそらくこれは完全なる見誤りだろう。
選考から漏れてしまった選手たちであっても、次のチャンスに向けて必死に結果を残そうとしていたと思う。
特に男子は、栃本翔平が夏のヒルレコード更新となる143.5mで5位入賞。試技でトップだった山川太朗は139.0mで入賞まで0.1pt差の7位。
男子組では、2本のヒルレコードが生まれ、4本のHSオーバーがあり、K点ジャンプは34本もある。
上位陣だけでなく、中位以降にいる選手たちも上々のパフォーマンスを発揮した試合となった。
女子組
高梨沙羅と小林陵侑は、全日本選手権NH、同LHからの3連勝。
高梨沙羅は2位に66.9ptもの差をつける圧勝。
小林陵侑は、4番という大倉山ではあまり使われたことのない超低速ゲートから栃本に並ぶ143.5mのヒルレコードタイを繰り出してみせた。
男子組
この日の平均風速は、男子1本目+1.21m/s、2本目+1.40m/s。女子1本目+1.19m/s、2本目+1.17m/s。(プラスの数値は向かい風を表す)
大倉山では、平均風速が+1.50m/sを超えるようなことも珍しくはない。ただ、過去1年間の大倉山で小林陵侑が出場した試合に限ってみると平均風速が+1.00m/s超えることは稀で、この日の試合がダントツに高い数値となっている。
ちょっと気になったのは、その割には基本ゲートの設定が少し高すぎやしなかったかということ。
前述の通り、この日の男子組では、2本のヒルレコードが生まれ、4本のHSオーバーがあり、K点ジャンプは34本もある。
そのうち基本ゲートでの本数は、ヒルレコード1本、HSオーバー2本、K点ジャンプ12本。特に2本目の基本ゲート11番では130.0mオーバーが3本出ている。
よって、1本目では14→11→9→8→6とゲートが下げられ、2本目では11→8→6→4と下げられた訳だが、果たして基本ゲートの設定は適正だったと言えるだろうか。
国内戦にはかねてから「沙羅ゲート問題」があった。
高梨沙羅にゲートを合わせると、他の多くの選手たちがK点の遥か手前に着地してしまう。
競技という観点からはそれが実力差の表れであるので何も問題はない。
ただ、スペクタクルという観点からは、(誤解を恐れずに敢えて言えば)観客は正直なんともつまらないものを見せられることになる。
国内戦でのゲートファクター(GF)の導入は、この問題の解消に繋がるのではないかと見る向きもあった。
つまり、下位選手には高めのゲート設定をしておいて高梨ら上位陣はジュリー判断で下げるという手法を採ることで、下位選手であってもある程度の飛距離を出すことができる。
しかし、GFは本来このような趣旨のものではないと個人的には解釈している。
少なくともWCにおいては、やはりあくまでも最も遠くに飛ぶであろう選手に合わせて基本ゲートは設定される。そのうえで、変化する風向風速に対して安全と公平の観点からのみ、その補正をGFに委ねるというのが、このルールのあるべき姿なのだと理解している。
しかし、この日の男子組の基本ゲートは最も遠くに飛ぶであろう選手(=小林陵侑)に合わせて設定されたとは言い難い。
もちろん、風向風速は読み切れないこともある。でも、すでに1本目の数値が出ている状態での2本目の設定はやはり高すぎたと思う。
少なくとも、あのゲートのまま小林陵侑を飛ばすことは最初から無理だと運営もわかっていただろう。
これは想像にすぎないが、おそらくこの日のジュリーの判断は、WCのようなゲート設定は端から目指さずに、選手の実力に合わせて徐々にゲートを下げていくことも止む無しといった、割り切った運営を行っていたのではないだろうか。
どのみちGFの加点・減点があるのだから、決してハンデ戦のようなことにはならないわけだし…
結果として、中位以下の選手たちにもK点ジャンプが続出したこの日の運営は大いなるスペクタクルもたらした。
どのようなゲート運用を「適性」と呼ぶかはわからないが、世界最高レベルの選手がいるこの国において、その選手と中高生を同じゲートで飛ばせることにそもそも無理があるのではとも思う。
であるならば、こと国内戦においては、選手の実力差に応じてゲート設定を変えるという運用方法はそれほどおかしなことでもないとも思える。
偶然だとは思うが、実は昨年のUHB杯もヒルサイズジャンプが男女合わせて6本飛び出し、夏のヒルレコードは男子で二つのタイ記録が生まれ、女子は3度塗り替えられている。
その時のブログに、「これで良かったのかどうかは少し疑問がないわけではないが、会場のお客さんもテレビの前の視聴者も大いに盛り上がったようなので良しとしよう」と書いたが、今年も概ね同じような感想を持った。
1年に一つや二つはこんな試合があってもいいと思う。
ただし、あくまでもWC代表選考等の対象外となる試合で。
表彰式
派手な飛ばしあいとなった男子に対して女子はやや地味な試合だったか。
K点を超えたのは僅かに4本。そのうちの2本は高梨沙羅。
残る2本のうち1本は岩佐明香。そして、もう1本は中学生の佐藤柚月だ。
確かに数値上は最も良い風を受けた。ゲートも基本の20番。
それでも高梨(136.5m、134.5m)に次ぐ飛距離(127.0m)を出したことは立派だ。
全日本選手権NHでは13位、同LHでは10位。この日の6位は決して風の恩恵だけによるものではない。
UHB杯では3年連続となるだろうか。
MCを務めたのは例の彼だ。
このブログで今までさんざん文句を言ってきたせいかどうかはわからないが、個人的にはかなり良くなったと思われる。
第33回UHB杯ジャンプ大会
いずれにしても、今後もUHB杯とWCは彼がMCを務めるのだろうから、慣れて受け入れた方が精神衛生上よろしいと悟った。
昨年はこう書いた。
でも、ごめんなさい。
私はまだ悟りの境地に達していないようだ。
やはり色々と気になる。
ただ、以下の点は改善されていた。
ただ、1点だけ注文がある。
2本目の選手コールの際に「ネクストジャンパー、ゼッケン86、藤田慎之介、東海大学」と紹介するんだけど、これだとスタート番号ががわからない。
青野さんやカタダさんは「20番、藤田慎之介、東海大学、ビブナンバー86」 と、最初にスタート番号を言ってくれる。スタート番号がわかると、逆算して1本目の順位がわかるし、あと何人飛ぶのかもわかる。
第33回UHB杯ジャンプ大会
もちろん2本目のスタートリストを見ればわかることなんだけれど、皆が皆リストとにらめっこしながら試合見ているわけではないので、アナウンスしてくれた方が親切。
ひょっとして、このブログを読んでいるのだろうか。
ならば、これも伝えておこう。
「昨年の△△カップは45位! 先日の○○杯は48位のジャンパーです!」
…って、やめてあげてほしい。
発表が見送られていた女子のWC代表が11月2日にようやく発表された。
派遣期間中に国内組との入れ替えの予定はないとのこと。
ただし、五輪代表については北京オリンピック派遣推薦基準に2022年1月17日までのWCの成績上位者と明記されており、これには札幌と蔵王のWCが含まれるため、開催国枠で出場する国内組の選手たちにも可能性が残された。
この点においては、国内組の選手がピシャリとドアから締め出されてしまった感のある男子とは大きな違いがある。