2021 FISノルディックスキー世界選手権オーベルストドルフ女子個人NH

クリネツ感涙の金 高梨沙羅「複雑な気持ち」の銅

2021年2月25日(木)オーベルストドルフ(GER)HS106/K95

Women Normal Hill Individual

 エマ・クリネツ(SLO) 279.6pt
 マーレン・ルンビ(NOR) 276.5pt
 高梨 沙羅(クラレ) 276.3pt
 
11  伊藤 有希(土屋ホーム) 241.7pt
20  丸山 希(明治大学) 217.5pt
22  勢藤 優花(北海道ハイテクAC) 203.5pt

予選リザルト オフィシャル リザルト


2人の選手が泣いていた。
金メダルに輝いたクリネツ。
そして、1本目のトップから金はおろか表彰台まで失うこととなったクラマー。

ワールドカップではこれまで5度の2位がありながら優勝がなかった。
そのうちの2つは今季のリュブノと2月のヒンツェンバッハ
いずれも1本目でトップとなりながら逆転を許してしまった。

その選手がこの大舞台で勝った。
1本目は2位。
そして2本目。これまでの轍を踏まずに2番手のスコアでカレントリーダーとなった。
これで2位以上が確定。既にその目は喜びで潤んでいた。

そして、歓喜の瞬間。
信じられないといった表情だっただろうか。チームメートたちの祝福の抱擁を受けながら定まらない視線の瞳から涙があふれ出た。

いつでも勝てるだけの準備が整っていながら、なかなか勝てなかったクリネツ。
チームメートでありライバルであるクリジュナルとの初優勝争いに敗れ、後発のクラマーやクバンダルにも先を越された。
悔しさの果てにようやく掴んだ勝利がまさかの世界選手権金メダル。
心から祝福したい勝利だ。

もう一人の涙の主であるクラマー。
1本目でヒルサイズオーバーの109.0mでトップを獲った。でも着地に苦しみ尻餅をつきそうになった。
これが勝敗の伏線となった。

2本目。
直前のクリネツが100.5mでカレントリーダーになると、ラストのクラマーに対して運営はゲートを1段下げた。
これが物議を呼んでいる。

クリネツのジャンプはヒルサイズにまだ5.5m足りていない。クラマーを前にしてそれまでの追い風が急に弱まったということでもない。
なのにゲートを下げる必要があったのかという物議だ。

これでクラマーが勝っていたのなら誰も何も言わなかっただろう。
しかし、クラマーは98.0mに落ちた。結果は4位。
金メダルに手が掛かっていながら、何もその手に掴むことなく4位に終わってしまった。
かくして失意の涙を流す羽目に。

運営は、1本目のヒルサイズオーバーと尻餅が頭をよぎったのだろう。
オーストリアチームは運営に抗議したようだが、まぁそれはあくまでも結果論。勝っていればオーストリアチームも運営の判断に拍手を送っていたことだろう。
クラマーは大きく飛距離を失ったが、着地に失敗もしており飛型点も大きく失っている。ゲートを下げたことそのものより、それに要した待ち時間などによる精神的な動揺が大きかったんじゃないかという気がする。

ルンビが銀メダルを獲得したことは驚きだ。
この種目のディフェンディング・チャンピオン。いわずと知れたワールドカップ3連覇中の選手。しかし、今季はまだ勝利はおろか表彰台さえなかった。
ただ、そんな中でも出場した全戦でシングル。本調子ではないとはいえ大崩れしているわけでもなかった。
大舞台で見せたここ一番の強さはさすがだ。

最後に高梨沙羅。
直近のワールドカップでは4戦3勝。
強かったかつての姿が戻り、最も金メダルに近い位置にいる選手としてこの試合に臨んだことは確かだった。

どこも悪いところがあるようには見えなかった。
結果的に1本目の着地で飛型点を大きく失ったことが響いたが、下の風をもらえていればあんな着地にはならなかったはず。
試合直後のインタビューで「風が目まぐるしく変わる中で…」ということを言っていたので、数値には表れない風のいたずらがあったのだろう。

世界選手権としては2013年の銀、2017の銅に続く3度目のメダル獲得。
しかし、目標としていた金に届かなかったことで「複雑な気持ち」と正直に心境を吐露した。

高梨沙羅は、目指していたものが明確に「金」であったはず。
それが獲れなかったのだから、本人がこれを「負け」と捉えるのは当然だろう。
「よく頑張った。立派な成績だよ」という思いはもちろん私の中にもある。
だからと言って「悔しいというより落胆というか。同じことを繰り返してしまっている自分が情けない」と涙を流す選手に対し、「銅メダルおめでとう!」と言うのはむしろ残酷すぎやしないか。

2017 FISノルディックスキー世界選手権ラハティ 女子個人NH

個人的には、この時と同じ思いなので「おめでとう」は言わないでおく。
ただ、この時ほど沙羅に悲壮感は感じられないので安堵してはいる。
おそらく、それは、この後にラージヒルが控えていることと無縁ではないと思う。

巻き返しを楽しみに待とう。

女子個人ノーマルヒル歴代メダリスト
 
2009 L.バン U.グレッスラー A.サーゲン
2011 D.イラシュコ E.ルンガルディエール C.マテル
2013 S.ヘンドリクソン 高梨 沙羅 J.ザイフリーズベルガー
2015 C.フォークト 伊藤 有希 D.イラシュコ-シュトルツ
2017 C.フォークト 伊藤 有希 高梨 沙羅
2019 M.ルンビ K.アルトハウス D.イラシュコ-シュトルツ
NEW E.クリネツ M.ルンビ 高梨 沙羅