小林陵侑 ジャンプ週間で史上3人目のグランドスラム
2019年1月6日(日) ビショフスホーヘン(AUT)HS142/K125
14th World Cup Competition
1 | 小林 陵侑(土屋ホーム) | 282.1pt | 135.0m | 137.5m |
2 | ダヴィド・クバツキ(POL) | 268.3pt | 138.0m | 130.0m |
3 | シュテファン・クラフト(AUT) | 267.5pt | 134.0m | 131.5m |
22 | 伊東 大貴(雪印メグミルク) | 226.9pt | 123.5m | 128.0m |
23 | 佐藤 幸椰(雪印メグミルク) | 224.7pt | 118.0m | 120.5m |
29 | 小林 潤志郎(雪印メグミルク) | 209.3pt | 123.5m | 114.0m |
32 | 葛西 紀明(土屋ホーム) | 103.9pt | 119.0m | |
34 | 中村 直幹(東海大学) | 101.9pt | 120.0m |
小林陵侑がジャンプ週間で全勝優勝を達成。
67回の歴史の中で全勝優勝を果たしたのは2001/02スヴェン・ハンナバルトと2017/18カミル・ストッフに続く史上三人目。
3連勝で完全優勝に王手をかけたにもかかわらず4戦目を落としてしまった選手は過去に7人。その中に1971/72笠谷幸生と1997/98船木和喜がいるが、日本人として初めてこの壁をぶち破った。
運命の一戦は、しかし、風雲急を告げる展開ではあった。
前日に予定されていたトレーニング3本と予選が悪天候のためキャンセル。新たなスケジュールとして本戦当日にトレーニング1本と予選を行うこととなった。
これによりトレーニングが2本減らされ、かつ、本戦前のトライアルがなくなった。
ビショフスホーヘンはアプローチの傾斜が緩く長いテーブルを持つ。そんな癖のある台であるにもかかわらずトレーニングを1本飛んだだけで予選そして本戦に挑まなければならず、順応力が試される。
そして、KO方式も採られない。通常のWCと同じくスタンディング順に飛ぶわけだが、これは4HTのスタンディングではなくWCのスタンディング。
つまり、陵侑が最後に飛ぶのはどちらでも一緒だが、その前に飛ぶのは4HTで2位のアイゼンビヒラーではなくWC2位のジワ。
直接的なライバルと離れた番手で飛ぶことになるわけだが、悪天候で風向風速が変わりやすい状況下では全く違う条件で飛ぶ可能性が増え予断を許さない。
陵侑はトレーニングを棄権し、ぶっつけで予選に臨んだが、結果は4戦目にして最も低い3位。
KO方式ではないので50以内に入りさえすれば良いのだが、アイゼンビヒラーとヨハンソンの飛ばし屋二人が上に立ち、おまけにクバツキが145.0mでヒルレコードを更新してしまったりしたからなんだかちょっと不安になる。
しかも予選での陵侑の踏切の膝の角度が148度というのもちょっと気になった。
理想は130度だそうだが、148度ということはタイミングがやや早いことを意味する。
それでも3位だから良しとも思えるが、今季これまでばっちりだったタイミングがここにきてズレていることに一抹の不安を覚える。
そして本戦。
予選よりも多いように見える降雪。風向風速も相変わらず定まらない。
陵侑の1本目はトップのアイゼンビヒラーから4.0pt落ちの4位。ゲートインを少し待たされたことが多少は影響したか。2位にクバツキ、3位にクラフト。猛者達の後塵を拝した。
今季これまでに収めてきた7つの勝利はいずれも1本目をトップで折り返してきたが、ここにきて初めて追う展開に。やはりグランドスラムは一筋縄にはいかない。
ところが、2本目で陵侑は稀代の勝負強さを発揮する。
条件の良くない中137.5mを飛び着地も見事に決めてみせた。
この状況で、このパフォーマンスが出せる凄まじさ。残る三人に強烈なプレッシャーをかける。
これを見たクラフトもクバツキも固くなったか1本目のような豪快さは影を潜め、中盤からの伸びを欠き最後はストンと落とされてしまった。
WC初優勝をジャンプ週間という大舞台で果たすべく気合がこもったアイゼンビヒラーは、条件は悪くなかったが勢い余ってしまったような感じでこれまたストンと落ちて万事休す。
こうして、小林陵侑の偉業達成の瞬間が訪れた。
自身初となる逆転優勝。終わってみれば2位に13.8ptの差をつけた。
ジャンプ週間総合優勝。そしてグランドスラム。
ほどなくして、小林陵侑はチームメートたちの祝福の輪の中にいた。
ジャンプ週間総合順位 | |||||||
Rank | Name | Nation | Total | 1st | 2nd | 3rd | 4th |
1 | 小林 陵侑 | JPN | 1098.0 | 282.3 | 266.6 | 267.0 | 282.1 |
1 | 1 | 1 | 1 | ||||
2 | マルクス・アイゼンビヒラー | GER | 1035.9 | 281.9 | 264.7 | 223.8 | 265.5 |
2 | 2 | 13 | 5 | ||||
3 | シュテファン・ライエ | GER | 1014.1 | 260.0 | 249.0 | 239.1 | 266.0 |
13 | 7 | 4 | 4 | ||||
4 | ダヴィド・クバツキ | POL | 1010.8 | 269.8 | 256.2 | 216.5 | 268.3 |
5 | 3 | 18 | 2 | ||||
5 | ロマン・コウデルカ | CZE | 1006.3 | 264.4 | 253.8 | 228.4 | 259.7 |
11 | 4 | 9 | 6 | ||||
12 | 佐藤 幸椰 | JPN | 947.4 | 255.0 | 236.3 | 231.4 | 224.7 |
15 | 17 | 6 | 23 | ||||
21 | 伊東 大貴 | JPN | 811.1 | 120.7 | 241.2 | 222.3 | 226.9 |
31 | 12 | 15 | 22 | ||||
25 | 小林 潤志郎 | JPN | 746.9 | 87.7 | 249.4 | 200.5 | 209.3 |
50 | 5 | 26 | 29 | ||||
32 | 中村 直幹 | JPN | 639.0 | 208.8 | 226.2 | 102.1 | 101.9 |
29 | 26 | 31 | 34 | ||||
42 | 葛西 紀明 | JPN | 305.7 | 100.9 | 100.9 | 103.9 | |
32 | 32 | 32 |
小林陵侑の全勝優勝で幕を閉じた第67回ジャンプ週間。
日本人の総合優勝は1997/98の船木和喜以来となる二人目。
また、ビショフスホーヘンでの優勝は日本人として初。
ハンナバルトがグランドスラムを達成した最初の男となったのは第50回大会。そう、それは50年目にして初めて達成されたほど困難なミッション。
ストッフが「このクラブの二人目の限定会員」(byハンナバルト)になったのは、第66回大会。つまり、ハンナバルトから26年後のこと。
かくも難しい偉業が2年連続で達成された。しかも、今季WC初勝利を挙げたばかりの22歳の日本人によって。
なんだか現実感に乏しく、深夜から未明にかけての観戦だったことも手伝って夢の中の出来事のようにさえ思える。
一夜明けた今、一生に一度見られるかどうかというほどの快挙を見届けることができて、陵侑には「おめでとう」と同時に「ありがとう」という気持ちでいっぱいだ。
陵侑とのタイトル争いを演じたアイゼンビヒラーにも拍手を送りたい。
子どものころからの夢だったと公言するジャンプ週間で、勝利こそつかめなかったが総合2位に輝いた。
表彰台で雄たけびを挙げた姿に不意に2014 COC札幌大会で優しい笑顔でサインをくれた事が思い出されて何故だかウルっと来た。
愛しのコウデルカが総合5位となったこともうれしい一方で、昨季グランドスラムのストッフが表彰台にすら上がれなかったことに軽くショックを受けた。
また、3試合で表彰台に立ったにもかかわらず1本の失敗に泣いたクラフトにこのトーナメントの恐ろしさを見た。
ジャンプ週間初挑戦となった佐藤幸椰はKOラウンド3戦全勝。インスブルックでは自己最高位の6位となった。
同じく初挑戦の中村直幹はフロイントをKOし、またラッキールーザーに残るなど見せ場を作った。
昨季のジャンプ週間で総合4位だった小林潤志郎はガル-パルで5位となり気を吐いた。
昨季は怪我の療養で参戦できなかった伊東大貴は上り調子で今後が楽しみ。
葛西紀明はKO方式でなければポイントを取れてた試合もあった。今後に期待。
なお、WC総合は5連勝中の陵侑が2位ジワを427ptもの大差で突き放した。
3位ストッフ、4位ライエ、5位ガイガー、6位フォルファン、7位クバツキ、8位クラフト、9位アイゼンビヒラー、10位ヨハンソン。
潤志郎21位、幸椰25位、大貴32位、中村33位、葛西61位。
またすぐに次の戦いが始まる。
コメント
更新が遅いでっせ、旦那(笑)
ついウトウトしてしまい、ハッと目が覚めたのは1本目の終盤。何かの知らせかと思いました。
追いかける展開ではありましたが、
2本目を安心して見ることが出来るのは何故でしょう。
奇跡は起きるものではなく、起こすもの。
素晴らしい若武者に酔いしれました。
FAさん、いつもコメントありがとうございます。
更新を楽しみにお待ち頂いていたようで嬉しく思います。
やはり今回の記事には気合が入りまくってしまい、仕上げるのに3時間ぐらい掛かっちゃいました。
ちなみに国内戦の写真入りの記事だと、写真の選定も含めて仕上げるのに通常7~8時間も要してしまいます。
5日の雪印杯と6日の五輪記念の記事は今のところ全く手つかず。
最終戦の陵侑とは違い、完全に追われる展開です(笑)
FAさんとは違って、私は2本目もハラハラしながら見てました。
予選でのクバツキのビッグジャンプが頭から離れなかったので。
昨季の最終戦でストッフに待ったをかけたのもクバツキでしたよね。
だからとにかくクバツキが怖かったです。
わかりますよ(笑)
日本人でのジャンプ週間優勝、しかも全勝なんて夢のような出来事で記事を作るのは初めてですものね(^_^)
気合いがしこたま入っているのが文章から見て取れました。
クバツキのビッグジャンプはTwitterですぐ入ってきました。
怖い存在でしたが、いまのRyoyuなら運も持ち合わせているので決めてくれる、と思い見ていました。
幸椰も頑張りましたね。
ここに来て世代交代の流れが出来つつあるのかなと。喜ばしいことです。
こうなるとRyoyuにはWC総合優勝をと欲が出てしまうところですが、もう欲ではないですね。実力ですものね(^_^)
月末の札幌がホント楽しみです。
毎年かっさらっていかれるスロベニアではなく日の丸で盛り上がること期待してます。
FAさん、コメントありがとうございます。
陵侑の総合優勝は当然に期待しちゃいます。
でもシーズンは長いので、個人的にはそこはあまり意識せずに、むしろコンペティティブな試合が増えるといいなと思っています。
アイゼンビヒラー、ライエ、フーバーなんかが勝つのも見たいですし。
もちろんストッフ、クラフト、そして忘れちゃいけないコウデルカも。
ただし、札幌大会だけは日本勢に譲ってほしいですけれどね。