2019/20 FISスキージャンプワールドカップ男子個人第11戦ビショフスホーフェン

クバツキ ジャンプ週間総合優勝

2020年1月6日(月)ビショフスホーフェン(AUT)HS142/K125

14th World Cup Competition

1  ダヴィド・クバツキ(POL) 300.9pt C.プレヴツ
2  カール・ガイガー(GER) 291.0pt アマン
3  マリウス・リンビーク(NOR) 289.4pt リンゲン
 
7  小林 陵侑(土屋ホーム) 279.0pt S.フーバー
8  伊東 大貴(雪印メグミルク) 276.4pt トロフィモフ
12  佐藤 幸椰(雪印メグミルク) 271.3pt フェットナー
29  小林 潤志郎(雪印メグミルク) 237.8pt コット
36  中村 直幹(東海大学札幌SC) 112.5pt クラフト
37  竹内 択(team taku) 112.1pt ライエ
38  佐藤 慧一(雪印メグミルク) 111.9pt D.プレヴツ

予選リザルト スタートリスト

オフィシャル リザルト


 

ダヴィド・クバツキが第68回ジャンプ週間で総合優勝を決めた。
クバツキにとっては2019年ノルディック世界選手権NHでの金メダルに続く主要タイトルの獲得。
ポーランド人としてはアダム・マリシュ、カミル・ストッフに次ぐ3人目の快挙。

 

最終戦を前にして総合優勝争いは事実上4人に絞られていた。

  1. クバツキ
  2. リンビーク(9.1pt差)
  3. ガイガー(13.3pt差)
  4. 小林陵侑(13.7pt差)

 

クバツキとリンビークは飛距離換算で5mの差。ガイガーと陵侑に対しては7.5mの差がありクバツキが優位に立っているのは間違いなかった。
ただ、クバツキは過去2シーズンに渡ってビショフスホーフェンでは引き立て役に回ってしまってきた。2017/18はストッフのグランドスラムの、2018/19は陵侑のグランドスラムの。

 

また、ここはアプローチの傾斜が極めて緩い特殊な台ゆえにタイミングが合わせづらい。リンビークがここを飛ぶのは初めて。ここで勝ったことがあるのは陵侑だけ。
予選は陵侑6位、リンビーク9位、クバツキ13位、ガイガー16位。
いやはや、全く読めない。

 

しかし、勝負は1本目でほぼ決着を見た。
クバツキがHS越えの143.0m。着地はやや乱れたかに見えたが19.0が並んだ。
プレッシャーに負けて引き立て役に回ったかつての姿はみじんも感じさせず、真骨頂と言える高く力強い踏切と空中でのグイグイと前へ進むスピードで他を圧倒した。
これで、リンビークとの差を14.2ptに広げ、ガイガーとの差も17.2ptに広げることに成功。この時点で勝負あったと見て取れた。

 

クバツキがこの日やらなければならなかった仕事がもう一つ。それはこの試合に勝利すること。無勝利のままのタイトル獲得では画竜点睛を欠く。
しかし、1本目のジャンプを見ればそれがそれほど難しい仕事ではないことは明らか。リンビークとガイガーが2本目で追撃しきれなかったことも手伝って、クバツキは冷静にそれでいて悠然と2本目のジャンプも決めてみせた。

 

この4試合で3位-3位-2位-優勝。すべて表彰台に上がったのは彼だけだ。
マリシュ、ストッフと並ぶに何ら恥じることのない見事なタイトル獲得だと思う。

 

過去6シーズンのジャンプ週間総合優勝者
2014/15 シュテファン・クラフト(AUT)
2015/16 ペテル・プレヴツ(SLO)
2016/17 カミル・ストッフ(POL)
2017/18 カミル・ストッフ(POL)
2018/19 小林 陵侑(JPN)
2019/20 ダヴィド・クバツキ(POL)

 

ジャンプ週間総合順位
  Name Total 1st 2nd 3rd 4th
1  D.クバツキ 1131.6 294.7 284.0 252.0 300.9
3 3 2 1
2  M.リンビーク 1111.0
(-20.6)
278.5 289.8 253.3 289.4
10 1 1 3
3  K.ガイガー 1108.4
(-23.2)
295.9 285.0 236.5 291.0
2 2 8 2
4  小林陵侑 1096.0
(-35.6)
305.1 282.1 229.8 279.0
1 4 14 7
5  S.クラフト 1086.0
(-45.6)
291.2 262.4 245.0 287.4
4 13 4 4
9  伊東大貴 1039.0
(-92.6)
267.3 273.4 221.9 276.4
18 5 18 8
19  佐藤幸椰 891.3
(-240.3)
280.1 247.2 92.7 271.3
7 27 46 12
29  小林潤志郎 717.3
(-414.3)
264.1   215.4 237.8
23   22 29
32  佐藤慧一 557.5
(-574.1)
  251.6 194.0 111.9
  23 29 38
33  中村直幹 550.7
(-580.9)
124.2 114.7 199.3 112.5
31 36 28 36
34  竹内択 532.9
(-598.7)
107.7 119.7 193.4 112.1
41 31 30 37

4HT総合順位

 

リンビークにとっては望外のジャンプ週間だったことだろう。
WC初優勝をガル-パルで遂げると続くインスブルックで連勝。一気にタイトル争いに名乗りを上げた。
勢いをそののままに、初めて飛ぶ難攻不落のビショフスホーフェンも攻略し表彰台を獲得。クバツキとガイガーにとって最後まで脅威となり続けた。
「全然がっかりなんてしていない。僕にとって本当に素晴らしいジャンプ週間だった」

 

ガイガーは4試合中で2位が3回。トーナメントを通じて結局勝たせてもらえなかった。
第3戦インスブルックでの1本目が唯一の失敗。いや、それすら不運な風がもたらしたもの。そうした運も含めてこのタイトルで8本揃えることがいかに難しいことか。
それでもあきらめることなく2本目で猛追しタイトル争いに踏みとどまったことは高く評価されるべきだし、最終戦も予選16位から見事にアジャスト。最後の1本までタイトル争いに絡み続けた。
タイトルは逃したとはいえ、大成功のジャンプ週間だったのではないだろうか。

 

クバツキ、リンビーク、ガイガーが最後までタイトル争いを演じたのに対して、小林陵侑は7本目で勝負を降りることになってしまった。
この7本目のジャンプは、今季の陵侑に見られる前傾の掛かりすぎたフォームに見えたが、Jスポ元康氏によるとこれは意図的にそうしているのではないということ。
この件については、すでに宮平コーチも同様のことを言及している。

序盤戦の陵侑は宮平コーチ曰く ”踏み切りから空中姿勢へ移る際に早く前傾を掛け過ぎていたことがロスの原因になっていた” が、それが改善されつつあるらしい。
前傾が深くなっていたのはGP白馬の頃から見られていたけれど、私はそれを勝手に「進化」と捉えていた。

やはり素人が安易に技術的なことに言及するもんじゃないね。実際は「進化」ではなく「悪化」だったわけだから。
優勝したクリンゲンタールの映像を改めて見返してみると、元々の陵侑のスタイル通りに「ユ」の字型に程良く板と体が離れていることがよくわかる。
ベストな状態に戻りつつあるということで、これまたジャンプ週間が楽しみだ。

2019/20 FISスキージャンプワールドカップ男子個人第6戦エンゲルベルク

 

初戦で勝ち、昨季からの5連勝を成し遂げた時には連覇を大いに期待したものだが、結果的に表彰台に立ったのはその1戦限り。
インスブルックでは運にも見放されはしたが、根本的にはやはりモデルチェンジしたかと見まごうほどまでに昨季とは違うジャンプになってしまっている点が改善されない限り、強い陵侑には戻らないのではと思われる。

 

それともう一点気になったのは、最終戦のJスポゲスト解説を務めた千田侑也氏(土屋ホームスキー部部長)の「陵侑が疲れているようだ」という発言。
で、最終戦後には陵侑自身も「腰痛はもともときていたけど、ちょっと気持ちも疲れている」とコメントしている。
う~ん… ってことは、やはりいったん帰国したほうが良かったんじゃないのって話にもなってきちゃう。もちろんそこで得た150ptとの引き換えにはなってしまうけど。

 

一方で、いったん帰国したことが功を奏したかどうかは定かではないけれど、総合9位となった伊東大貴は見事だった。
2度のシングル。ガル-パルでは表彰台も期待された。最終戦の予選では僅か0.1pt差の2位にもなった。
個人的にはジャンプ週間の最大の見どころは大貴の活躍だった。この後の試合もすごく楽しみ。

 

さて、シーズン前半の山場であったジャンプ週間が終わった。
ここからはオーバーオールに集中したい。
あまり良くない状態とはいえ陵侑はイエロービブをキープしている。でも背後には25pt差でガイガーが迫り、クラフト(105pt差)、リンビーク(175pt差)、クバツキ(200pt差)と続く。また、12位には佐藤幸椰、16位には伊東大貴がそれぞれ上位をうかがう。

 

休む間もなく、今週末にはすぐに試合が待っている。