スキージャンプの結果を下手な写真でお伝えするブログです

2019 FISノルディックスキー世界選手権ゼーフェルト 男子個人NH

難試合をポーランドが制する クバツキ金 ストッフ銀 

2019年3月1日(金) ゼーフェルト(AUT)HS109/K99

Men Normal Hill Individual

 ダヴィド・クバツキ(POL) 218.3pt 93.0m 104.5m
 カミル・ストッフ(POL) 215.5pt 91.5m 101.5m
 シュテファン・クラフト(AUT) 214.8pt 93.5m 101.0m
 
7 佐藤 幸椰(雪印メグミルク) 210.5pt 92.0m 99.0m
14 小林 陵侑(土屋ホーム) 203.4pt 101.0m 92.5m
17 小林 潤志郎(雪印メグミルク) 199.4pt 89.5m97.0m
34 伊東 大貴(雪印メグミルク) 81.9pt 89.5m 

予選リザルト オフィシャル リザルト


 

ダヴィド・クバツキが1本目27位からの大逆転で金メダルを獲得。
今季WCバルディフィエンメで初優勝を遂げたが、それはむしろ遅すぎたくらいで経験も能力も十分な選手。
銀のカミル・ストッフも18位から一気に頂点に迫った。今大会でのポーランドの男女通じての初メダルはワン・ツーによって獲得することとなった。
銅はシュテファン・クラフト。10位からの表彰台で開催国の面目を保った。なお、クラフトはこの種目で2大会連続のメダル獲得。

 

期待の小林陵侑は1本目で難しい条件下でライバルたちが苦戦する中、見事なパフォーマンスでトップに立ったが、2本目はさらに難しいコンディションに翻弄され14位に沈んだ。
佐藤幸椰は7位と健闘した。

 


 

 世界選手権 男子個人NH 歴代メダリスト
 
2007アダム・マリシュハリ・オリトーマス・モルゲンシュテルン
2009ウォルフガング・ロイツルグレゴア・シュリーレンツァウアーシモン・アマン
2011トーマス・モルゲンシュテルンアンドレアス・コフラーアダム・マリシュ
2013アンデシュ・バーダルグレゴア・シュリーレンツァウアーぺテル・プレヴツ
2015ルネ・ベルタセヴェリン・フロイントシュテファン・クラフト
2017シュテファン・クラフトアンドレアス・ヴェリンガーマルクス・アイゼンビヒラー
2019ダヴィド・クバツキカミル・ストッフシュテファン・クラフト

 


 

この試合が海外も含めて物議をかもしている。
海外の論調は言葉がわからないので詳しくは知らないが、日本においては運営に対する批判の意見が多い。
1本目トップだった小林陵侑のメダルが奪われた形になったので無理からぬことではあるが、一方でバイアスがかかっている意見も多いとも感じられる。

 

以下に私なりの考えをまとめてみた。
つたない知識ゆえにおかしなことを言っている部分もあるかもしれない。
また、嫌になるほど長文でもあるのでご勘弁願いたい。

2本目のアプローチスピードは不公平か

最も多い意見は、2本目のアプローチスビートがあまりに違い過ぎて不公平ではないか? というものだろう。
1本目で運営は4つのゲートを使ったのに対し2本目は16番ゲートのみを使用。
表彰台の3人の2本目のスピードが89.4km/h(クバツキ)、88.2km/h(ストッフ)、88.0km/h(クラフト)だったのに対して陵侑は86.7km/h。
クバツキに対しては実に2.7km/hも遅い。これでは全く勝負にならない。ゆえに不公平だと。

 

そもそも、同じ16番ゲートでありながら何故これほどまでの差が生じたのか。
理由は降雪。試合開始当初からみぞれ交じりの雪が降り、気温が下がった2本目には本格的な雪に変わった。
みぞれや雪はインランに積もり、それがブレーキとなってアプローチスピードが出ない。
2本目は途中から雪が激しくなり最後の8人が著しくスピードが出なくなり割を食った。
しかし、運営はこれに対し何らアクションを起こさなかった。おかげで1本目トップだった陵侑は30人中で最も遅い86.7km/hしか出せず万事休す。「あまりに不公平な運営」「歴史に残るクソ試合」「陵侑の金メダルが奪われた」…、となったわけだ。

 

下表は2本目のアプローチスピードと2本目だけの順位。

2本目のスタート順
( )は1本目の順位
 km/h2本目の順位
1 (29)マーター88.915
2 (29)フラ88.97
3 (28)小林潤志郎88.513
4 (27)クバツキ89.41
5 (26)マルセッフ88.429
6 (25)アイゼンビヒラー88.84
7 (24)ワシリエフ88.418
8 (23)リーロイド88.122
9 (22)アマン88.610
10 (21)コウデルカ88.014
11 (20)アッシェンヴァルド88.73
12 (19)フライターク88.55
13 (18)ストッフ88.22
14 (17)ダミヤン88.111
15 (16)佐藤幸椰88.48
16 (15)コロレド88.519
17 (14)ハイベック88.89
18 (13)ラーソン88.827
19 (12)ヨハンソン88.317
20 (10)フーバー87.820
21 (10)クラフト88.05
22 (9)ライエ88.512
23 (7)マルケング 21
24 (7)ストエルネン 25
25 (6)サカラ 30
26 (5)プレヴツ87.226
27 (4)パイエル87.316
28 (3)イエラル86.928
29 (2)ガイガー87.324
30 (1)小林陵侑86.723

 

こうしてみると22番スタートのライエまでは88km/h台のスピードが出ていたことがわかる。4番スタートのクバツキが唯一89km/h台。20番スタートのフーバーが唯一87km/h台。
23番から25番は何らかの不具合により測定不能。26番スタートのプレヴツ以降は88km/h台は誰も出せず、最後の陵侑は最も遅い86.7km/hにまで下がってしまっていることがわかる。

 

これを見る限りは、少なくとも22人目までは公平な試合が行われていたように見える。
ちなみに22人目までの平均は88.5km/h。
まず、陵侑がいかに不公平な状態で飛ばされたかを論じるためにはこの数値を用いるべきだと思うが如何か。一番速かったクバツキとの比較で2.7km/h差という数値を持ち出すのは議論の前提として公正さを欠くように思う。
なので、先に飛んだ22人と最後に飛んだ陵侑のスピード差は1.8km/hということになり、この差を補正することなく試合が成立したことの是非が問題となる。

 

2.7km/h差を用いることがなぜ公正ではないかというと、この差の全てがアプローチ不良によるものではないと思えるから。少なくともクバツキは22人の平均値である88.5km/hと比較しても0.9km/hも速い。これは彼だけアプローチの状態が飛び切り良かった為と考えるよりも(それも多少はあったかもしれないが) 彼の能力が他より優れていたことによる数値と考えるのが自然ではないか。
その能力の分までも公平にしなければならないとなると、それはもう競技スポーツではなくなる。

 

私の認識では、WF/GFは不公平の補正と安全性の確保がその目的。そして不公平の補正と安全性の確保は主に風向風速を対象として行われる。
選手個々の能力(身体能力、技術面、メンタル面等々)の差異までをも公平にするためのものでは決してない。

 

更に言えば、WF/GFは、降雪等によるアプローチの状態変化に対する補正はその目的として想定されていないはず。
では、アプローチの状態変化を補正するシステムは何もないのかというとそうではない。考えられるものは三つ。「アイストラックシステム」「ブロワーによる除去」そして「雪が止むのを待つ」こと。いずれも物理的にアプローチの状態を公平に保とうとする方策だ。
ゼーフェルトはアイストラックシステムが導入されていないように見えたし、仮に導入されていたとしても雪の付着に対応できるのかどうかはわからない。よって、「ブロワーによる除去」と「雪が止むのを待つ」ことのいずれかまたは両方で公平性を保つことになる。

 

私はこれが答えのような気がしている。
元々FISのスタンスは、アプローチに雪が付着した場合はブロワーによってできる限りこれを取り除くか中断して雪が止むのを待つかのいずれか又はその両方を用いて公平性の確保に努めるが、それでも除去できなくてアプローチスピードに影響が出たとしても特に補正は行いませんよというものなのではないかと。

 

WF/GFが導入されたのは2011年。それ以降、風向風速の不公平は補正されるようになった。とは言えやはり向かい風が有利。
つまりWF/GFは万能ではない。風向風速を完全にイコールに補正することなどできないことは周知の事実。
ましてや、雪の付着によるアプローチの状態まで数値により補正することはかなり無理があるように思える。
スキージャンプは屋外競技であり元々風や雪に影響を受けやすい競技。完全にイコールコンディションを作り出すことなどできはしないことは織り込み済みのはず。

 

25番(サカラ)が飛んだ後、解説の雅彦氏が「ゲートを上げるとかブレイクするとかをやらないんですかね…」と言及しているが、私もほぼ同じタイミングでブレイクすべきだと思った。あくまでも「ブレイク」すべきと思ったのであって「ゲートを上げろ」と思ったわけではない。前述の通り、アプローチの状態による不公平の補正手段にゲートの変更という手段はないと認識しているからだ。
つまりこの時やるべきこと・やれることは二つしかなかった。ブロワーで必死に雪を除去するか一旦ブレイクして雪が止むのを待つかの二つだ。

 

そして運営は、ブレイクして雪が止むのを待つのではなくブロワーで雪を除去しながら続行することを選択した。運営は天気レーダー等により降雪が続くことを知っていたのだろう。これ以上酷くならないうちに試合を終わらそうとしたのはむしろ自然な考えのように思える。
ルーティンであるテクニカル・ブレイクを取らなかったのも同様の理由からだろう。決してテレビ中継に納めたかったからではない。
いずれにしても、運営は只々漫然と試合を進めたわけではなく、様々な局面で議論や検討を行い、ひょっとすると葛藤もありながらも判断を下し続けていたのだろうと思う。

 

結果としてラスト5人(測定不能だった3人もそうだとしたら8人)の選手が割を食った。その中に陵侑が含まれていたことは極めて残念なことだし可哀想だとは思うが、運営に不手際が無かった以上「不運」だったと受け入れざるを得ないと思う。

1本目終了時点で2本目をキャンセルすべきだったのか

確かに1本目から既にみぞれ交じりの雪はひどかったが、かといってレットシグナルでゲートを外すような場面はほとんどなかった。
1本目に費やした時間は52分。スキージャンプの本戦は1人につき1分が目安なので、1本目は普通にサクサクと進んでいたと言える。

 

1本目終了時点で、この後の天気が荒れる予報でもあれば2本目キャンセルという判断もあったかもしれない。しかし、実際2本目は実施されたわけだからそのような予報は無かったのだろう。事実、2本目はテクニカル・ブレイクを取らなかったこともあって27分で終了している。

 

このような状況では、1本目終了時点で2本目をキャンセルする理由がない。

 

おそらく、1本目終了時点でキャンセルをするべきだったのではと主張する理由は「1本目が試合としての体をなしていなかったから」ということなのだろう。「こんなグダグタを2回もやる必要はない」と。
そしてこの主張の結論は「2本目をキャンセルとし、1本目の結果をもって試合成立とする」ということのようだ。

 

1本目終了時点で「試合としての体をなしていない」と思ったのは私も一緒。なので私は、「1本目をキャンセルして最初からやり直すべき」と思った。試合としての体をなしていないのならキャンセルするのが筋だと思うからだ。
「1本目終了時点で2本目をキャンセルすべきだった」との主張には「2本目にグダグダになるであろうこと(あるいは実際にグダグタになったこと)は認めない」けど「1本目のグダグダは認める」という矛盾をはらむ。
冒頭で「バイアスがかかっている」と言ったのはこの部分だ。陵侑に勝ってほしかった・勝たせてあげたかったという気持ちが矛盾した論調を生んでいると感じられる。

 

先述の通り、2本目の運営に不手際は無かったと私は思っているが、ただ何人かの選手が甚大な「不運」に見舞われたことは確かだろう。
では、1本目には「不運」は無かったのか。

 

雪がインランに積もり、それがブレーキとなってアプローチスピードが出なかったのは2本目だけではない。1本目から既にその状態だった。
その割に1本目の運営に批判の声があまり上がらないのは、ゲート変更を行っているからだろうか。逆に2本目の運営に批判が集まるのは、1本目のアプローチ不良に対してはゲート変更を行ったのに何故2本目ではそれをしなかったのかといったところか。

 

しかし、改めて言うが、私の認識ではアプローチの状態による不公平の補正手段にゲートの変更を用いることは無い。
1本目でゲート変更が行われたのはあくまでも風向風速に対する補正であったと思う。

 

下表は1本目で使用された4つのゲートの比較。

ゲートスタート順と人数平均速度平均風速
91番~25番の25人85.4km/h 0.51m/s 1人を除いて向かい風
1126番の1人86.3km/h 0.00m/s 伊東大貴
1227番~44番までの18人87.0km/h -0.38m/s 4人を除いて追い風
1345番~50番までの6人87.6km/h -0.69m/s 全員追い風

 

25人目までが9番ゲート。このゲートで最初に飛んだ10人の平均速度は85.8km/h。最後の10人は85.1km/h。後の方がアプローチの状態は悪くなっていたと推察される。
この後26番でゲートが2段上がったが、これはあくまでも風向風速に対する補正であったと思う。25人目までは数値上は向かい風だった(ただし1人だけ追い風)が、26番でその風が止み27番からは追い風に変わった。ゲートの変更はこれを補正するためのものだったはず。
ただし、結果的にそれはアプローチスピードの補正にもなっているので、この時のゲート変更の真意は判然とはしない。

 

12番ゲートから13番ゲートへの変更はどうか。
13番ゲートへの変更は、43番ザイツが50位に終わり続くフォルファングも45位に終わったところで行われたが、この時のスピードは86.9km/sと87.1km/s。12番ゲートの平均が87.0km/sなので特に遅いわけではない。さらに言えば、このゲートの最初の6人の平均速度は86.8km/sなのに対して最後の6人が87.1Km/s。スピードは多少なりとも上がってきていたのにゲートは1段上げられたことになる。
つまりこの時のゲート変更はアプローチスピードの補正の為に行われたのではないことは明らか。ザイツとフォルファング、更には一人前のアイザイ辺りで追い風が強まったのでその補正の為に行われたとみて間違いない。

 

改めて言うが1本目でゲート変更が行われたのはあくまでも風向風速に対する補正であったと思われる。よって、1本目のアプローチ不良に対してはゲート変更を行ったのに、なぜ2本目ではそれをしなかったのかという運営批判は的を射ていないように思う。
ただし、前述の通りゲートを上げたことで結果的にアプローチスピードの補正にもなっていることは否定できない。その意味からいえば、2本目より1本目の方がより公平な状態で試合は行われたように思う。

 

でも1本目のリザルトを見る限りはとても公平な状態で行われたとは思えない。
ザイツ50位、フォルファング45位、ジラ33位、クバツキ27位、アイゼンビヒラー25位、ストッフ18位、クラフト10位と本来上位につけるであろう者たちが下位に沈んだ。一方でイエラル3位、サカラ6位、マルケング7位、ラーソン13位、マルセッフ26位を見る限りはCOCのリザルトを見ているかのようでもある。
なぜこんなことになってしまったのか。

 

私のつたないレベルではホントのところはわからないが「風向風速」「WF」「GF」「アプローチの状態」が織りなす相乗効果によってこんなことになってしまったとしか言いようがない。
ゲートを上げたのはあくまでも風向風速への対応だったが、アプローチの状態が良くないのでスピードはそれほど上がらなかった。でもその割にはGFがガッツリ引かれてしまう。基本ゲート9番に対する13番のゲートファクターは-18.2pt。飛距離にして9mの差だ。

 

これも一つの答えのような気がする。ゲートを上げてもスビートはそれほど増えないでGFの減点だけが重くのしかかる。
2本目のラスト数人でゲートを上げていたとしても同じことが起こった可能性がある。
陵侑は2本目を振り返り「アプローチで3回くらい詰まった」と語ったが、ゲートを上げたとしてもそれが4回か5回に増えるだけだったのかも。それでいてGFで減点されてしまうわけで、やはりこの時はブロワーで必死に雪を除去するか一旦ブレイクして雪が止むのを待つかしかなかった。

 

いずれにしても、この日の1本目に関してはGFは機能していなかったと言えるのではないか。効きすぎてゲートを上げる方が損をするような感じだった。一方WFは効きが弱く、強めの追い風が補正されていない。
かといってこの台がいわゆるクソ台かというとそれも違うと思う。なぜなら他の3試合(女子団体、女子個人、混合団体)は特に問題なく行われ結果も順当なものだったから。
つまりこの日だけ特殊な状況だった。「風向風速」「WF/GF」「アプローチの状態」の相乗効果により奇跡的ともいえるトンデモ状況が生み出されてしまった。

 

このトンデモ状況に対抗できる手段は唯一「キャンセル」だけだったように思う。アイザイ、ザイツ、フォルファングが沈んだ時点で明らかに試合は壊れた。その時点でキャンセルすべきだった。
そして別日に改めて仕切り直す。ホルンガッハーが日曜日に延期すべき旨を語ったようだが、推察するにその日が予備日として設定されていたのであろう。
その日も同じような天気になってしまったとしても、それはそれで仕方ないと割り切れる。

 

 

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