第73回ジャンプ週間 チョフェニックが初制覇、2位ヘール、3位クラフトとオーストリアが圧倒的強さを示し幕を閉じる
Official Results
1 | ダニエル・チョフェニック(AUT) | 308.6pt | イエラル |
2 | ヤン・ヘール(AUT) | 306.5pt | イプシオール |
3 | シュテファン・クラフト(AUT) | 303.2pt | ウアラウプ |
10 | 二階堂 蓮(日本ビールスキー部) | 289.9pt | クバツキ |
24 | 小林 陵侑(TEAM ROY) | 270.4pt | シュスター |
31 | 中村 直幹(Flying Laboratory SC) | 134.2pt | ライムント |
40 | 佐藤 慧一(雪印メグミルクスキー部) | 121.9pt | フランツ |
41 | 内藤 智文(山形県スポーツ協会) | 120.4pt | ゾグラフスキー |
42 | 小林 朔太郎(雪印メグミルクスキー部) | 119.5pt | ガイガー |
同チームの3名による歴史に残るような大接戦を制し金鷲のトロフィーを掲げたのは、ダニエル・チョフェニックだった。
オーストリアの将来を担う逸材として10代でワールドカップにデビューした22歳は、初優勝から僅か1ヵ月でビッグタイトルを手に入れた。
第3戦が終了した時点で総合優勝の可能性があったのはオーストリアの3名。
彼らは、僅か1.3ptの中にひしめき合っていた。有って無いような差だ。
暫定1位 | S.クラフト | 887.1 |
暫定2位 | J.ヘール | -0.6 |
暫定3位 | D.チョフェニック | -1.3 |
迎えた最終戦。1本目でヘールは3位、チョフェニックは5位と出遅れた。
とてつもない重圧がかかる大舞台。チョフェニックは少し若さが出たか。
一方、この二人を尻目に百戦錬磨のクラフトはトップ。決して大きくはないが、でも着実に差を広げた
暫定1位 | S.クラフト | 1041.9 |
暫定2位 | J.ヘール | -2.7 |
暫定3位 | D.チョフェニック | -6.5 |
そして運命の8本目。
チョフェニックは140.5mの会心の一発を見せた。
強い追い風ゆえにゲート設定ははやや高め。これだけのスピードをもらえればオーストリアのスーパースリーは多少の追い風でも飛んでいく。加えてチョフェニックは1本目で差を拡げられたことで失うものは何もないという心境にもなれたであろうか。
ほぼ同じ条件の中、ヘールはチョフェニックを飛距離で2.5m上回った。
獲ればヘールにとっても初のビッグタイトル。少し攻めすぎたのか着地に耐え切れずお尻が落ちた。
飛型点を大きく失い総合ポイントでチョフェニックに1.4pt及ばず。頭を抱えたが、まさに痛恨の極み。
そしてラストはクラフト。
前戦インスブルックで当地での初優勝に喜びを爆発させたクラフト。あんなに派手に喜びを表す姿は初めて見たかも。ジャンプ週間の首位を奪い返したことも当然にその感情を揺さぶったのだろう。
2014/15以来となる2度目の戴冠を信じて疑わなかったのは、何よりもクラフト自身だったのではないだろうか。
しかし、ここで文字通り風向きが変わる。
それまで吹いていた強い追い風が収まり始めた。
運営はゲートコントロールではなくシグナルコントロールを選択。この判断自体は妥当だったと思う。
ただ、なかなか条件は定まらず、あまりにも長く待たされることとなってしまった。
クラフトは一旦スキーを外したが、ブーツを脱ぐわけにはいかない。両足を堅く締め付けられた状態で長く待たされることは間違いなくパフォーマンスに影響する。
約6分待たされてようやくスタート。
しかし、チョフェニックが描いた緑のラインには届かなかった。
そこから先のクラフトの顔には失意、落胆、不満、怒り、悲しみ…と負の感情が代わる代わる表れた。それはもう、見ているこちらが辛くなるほどに。
インスブルックで見せた歓喜の姿とあまりにも対照的な姿 ―
4Hillsトーナメント総合順位
1 | ダニエル・チョフェニック(AUT) | 1194.4pt | 2↑ |
2 | ヤン・ヘール(AUT) | -1.4 | – |
3 | シュテファン・クラフト(AUT) | -4.1 | 2↓ |
4 | ヨハン-アンドレ・フォルファン(NOR) | -40.2 | 1↑ |
5 | グレゴール・デシュバンデン(SUI) | -42.5 | 1↓ |
6 | ピウス・パシュケ(GER) | -60.4 | – |
15 | 小林 陵侑(JPN) | -170.9 | 2↓ |
19 | 中村 直幹(JPN) | -267.5 | 6↓ |
27 | 二階堂 蓮(JPN) | -355.4 | 2↑ |
34 | 小林 朔太郎(JPN) | -616.8 | 1↓ |
41 | 佐藤 慧一(JPN) | -719.9 | 4↓ |
50 | 内藤 智文(JPN) | -958.0 | 6↑ |
オーストリア勢としては、2014/15のクラフト以来9シーズンぶりの総合優勝となったチョフェニック。
2位にヘール、3位にクラフトとオーストリアはジャンプ週間総合の表彰台を独占した。
また、オーストリアは第1戦クラフト、第2戦チョフェニック、第3戦クラフト、第4戦チョフェニックと4戦全勝。
2017/18のストッフ、2018/19の小林陵侑のグランドスラムを除けば、4試合の優勝者を同国で占めたのは2011/12以来13シーズンぶり。なお、その時もオーストリアだった。(シュリーレンツァウアー×2、コフラー、モルゲンシュテルン)
さらには第2戦を除く3試合で表彰台を独占。
第2戦でも3位にハイベックが入っており、延べ12人の表彰台登壇者の実に11人がオーストリアだった。(パーフェクトを阻止したのはスイスのデシュバンデン)
まさに、オーストリアの、オーストリアによる、オーストリアのための第73回ジャンプ週間。
しかし…
後年この大会を振り返った時に一番に思い出されるのは、鮮やかな逆転でタイトルを手中に収めたチョフェニックの姿でもオーストリアの表彰台独占の姿でもなく、凍り付いた表情で打ちひしがれるクラフトの姿なのではないかという気がする。
少なくとも私にとっては、少し切ない思いが残る幕切れではあった。
ビショフスホーフェンでの表彰台独占により、オーストリアは今季WCにおいて4度目の表彰台独占。
この記録は、まだまだ伸ばせそうな勢いだ。
WC個人総合は、第12戦ガル-パルでチョフェニックが開幕から首位を守り続けてきたパシュケから遂にイエロービブを奪取。
その後パシュケは3位まで後退し、2位には40pt差でヘールがつけている。
やや点差が開いたとはいえクラフトも4位につけており、オーストリアの強さが際立つ。
日本勢では、二階堂蓮がビショフスホーフェンで今季4度目のトップ10入り。2本目は3位の得点。
WC総合では日本勢トップの15位につけている。まだまだ上を狙えそうだ。
総合18位に小林陵侑、総合33位に中村直幹、総合52位に佐藤慧一、総合55位に小林朔太郎と続く。
1/17-19のザコパネまでは中10日空くので日本チームは一旦帰国する。
そして、小林陵侑は調整のためにザコパネをスキップすると報道された
一方、帰国したWCチームと入れ替わって、1/11-12のクリンゲンタールと1/18-19のビショフスホーフェンに向けて、小林潤志郎、内藤智文、葛西紀明、佐藤幸椰の4名からなるCOCチームが派遣される。
- 1/11-12 COC クリンゲンタール
- 1/17-19 WC ザコパネ
- 1/18-19 COC ビショフスホーフェン
- 1/24-26 WC オーベルストドルフFH
- 1/25-26 COC 札幌
- 1/31-2/2 WC ヴィリンゲン
ここで気になる点が二つ。
一つ目は、内藤智文がWCチームから外れたこと。
一日、いや二日考えてみたけど、これがよくわからない。(実際は三日、いや四日考えてみたけど…)
私には、内藤がザコパネ、オーベルストドルフFH、ヴィリンゲンまでの選考基準を満たしているように読み取れるのだが…
そもそも内藤は「自力枠」でジャンプ週間に参戦したのだろうか?
というのも、仮に枠が1枠増えていなかったとしても②の基準で選考されていたはずだから。
6枠になったことで選考されたのは、むしろ③の基準で選考されて選手だったと言える。
もっとも、内藤がもたらした1枠増の効果はジャンプ週間のピリオドで終わる。ザコパネ以降は誰か1名が外れなくてはならない。
この場合は「記載順序は優先順位を示したものである」に従い①と②の選手を残すと私は解釈したのだが、コーチ陣は現時点のWCの成績順に5人を残すという判断をした。
おそらく多くの方が、私の解釈には無理があって、コーチ陣の判断こそ至極真っ当だと思うのではないだろうか。
実際、私だったそう思わなくはない(笑)
でも、もし内藤がCOC第3ピリオドで総合4〜6位だった場合はどうだろう。
この場合は①と②の5人しかいないのだから、そのままヴィリンゲンまで当該5人のままの編成だったはず。
こうなるとCOC第3ピリオドで総合3位になって国枠を一つ増やしたことが、日本チームの利益にはなったが、内藤にはむしろ不利益となってしまったことになる。ここがどうにもすっきりしないのだ。
1枠増が生んだ問題点。今後の大きな課題。
ただし、これはCOCに積極的に派遣したからこそ起こったこと。
その意味ではポジティブな課題。
二つ目は、COCチームに小林潤志郎が加わっていること。
潤志郎は、直近のCOCの成績によりWCにおいて日本に1枠増をもたらした。よって、ジャンプ週間の次のピリオド(ザコパネとオーベルストドルフFH)も引き続き日本は6枠で臨むことになる。
なので、潤志郎はザコパネからWCチームに加わると思われていたが…
クリンゲンタールだけに参戦し、ビショフスは参戦せずにWCザコパネに編入されるということなのだろうか?
だとしたらクリンゲンタールだけに参戦させる理由は何だろう。
いくつかの理由が考えられるが、あくまでも可能性の一つとしてだけど私の中である仮説が浮かんできている。
ただし、これは荒唐無稽ともいえる仮説。よって現時点では口をつぐんでおくことにする。
ところで、小林陵侑がザコパネをスキップするという話はいつ決まったことなのだろう。
これにより枠が一つ空く。ならば内藤を残しても良かったはず。
というか、ザコパネをスキップするのは陵侑だけなのか? もし、チーム全体がスキップするなら、潤志郎がCOCなのも内藤をWCに残さなかったのも全部説明がつく。