小林陵侑 2度目のジャンプ週間総合優勝 フーバーWC初勝利
2022年1月6日(木) ビショフスホーヘン(AUT)HS142/K125
14th World Cup Competition
1 | ダニエル・フーバー(AUT) | 286.8pt | 小林潤志郎 |
2 | ハルヴォア-エグナー・グランネル(NOR) | 282.4pt | フロイント |
3 | カール・ガイガー(GER) | 281.9pt | フェットナー |
4 | 佐藤 幸椰(雪印メグミルクスキー部) | 281.1pt | パシュケ |
5 | 小林 陵侑(土屋ホームスキー部) | 277.8pt | ビルムスタッド |
14 | 小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部) | 260.4pt | フーバー |
45 | 佐藤 慧一(雪印メグミルクスキー部) | 106.9pt | パイエル |
54 | 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) | 予選落ち | |
55 | 中村 直幹(Flying Laboratory SC) | 予選落ち |
1本目を5位で折り返した小林陵侑の2本目。
やはり緊張があったのか、踏切が僅かに遅れたように見えた。そのあおりで空中でスキーが上がってこない。
思ったようには飛距離を伸ばせなかったが、それでも0.1pt差でかろうじてカレントリーダーに。
やるべきことはやった。あとは残る4人のジャンプを見届けるのみ。
しかし、次に飛んだグランネルの得点が上回った。
その瞬間に一つの夢がついえた。
グランドスラムは、過去69回のジャンプ週間の歴史の中でスヴェン・ハンナバルト(2001/02)、カミル・ストッフ(2017/18)、そして小林陵侑(2018/19)のたった3人しか達成していない。
2度目となればもちろん史上初の偉業。
小林陵侑はその偉業を成し遂げる最初の選手となる挑戦権を持ってこの試合に臨んでいた。
1本目。
ジャンプ週間総合優勝に向けて17.9pt差で陵侑を追っていた46番スタートのリンビーク。
しかし、力が入りすぎてしまったのか失速し、まさかの23位。
これで、陵侑の総合優勝はほぼ決まった。
残る焦点はグランドスラム。
しかし、「頭が真っ白になってしまった」陵侑は、タイミングがやや遅れたことで空中でスキーが上がってこない。
ガイガー、フーバー、佐藤幸椰、グランネルに次ぐ5位で2本目に臨むこととなった。
でも、今季の陵侑はここからが真骨頂。
ここまで挙げた6勝のうち4つが逆転勝利。
しかもジャンプ週間初戦オーベルストドルフでは5位からの逆転勝ち。
陵侑の力をもってすればその再現は十二分に期待できる。
しかし、やはりグランドスラムは難しかった。
冒頭で書いた通り、2本目もまた1本目と同じように完璧なパフォーマンスとはならなかった。
残る4人を超えることはなく、そのまま5位で試合を終えることとなった。
「ちょっと悔しいけど、この歴史ある試合で2度目のゴールデンイーグルを獲れてすごくうれしい」
陵侑のこのコメントは、おそらく日本の多くのジャンプファンの心情でもあるのではないか。
実際私も、前人未到の大偉業を逃したことは悔しいし残念だとは思うが、それ以上に2度目のゴールデンイーグルの獲得を心からうれしく思う。
実はこれまで、陵侑自身は一言もジャンプ週間の総合優勝を目指しますとか、グランドスラムを獲りに行きますとは言っていない。
ただ、それは本心の裏返しだろう。今季の調子の良さから言って、総合優勝もグランドスラムも意識しないわけがない。
一つ勝つごとにプレッシャーは強まっていたようで、そこを敢えて「目の前の1勝を目標とする」ことで、努めて冷静であろう自然体であろうとしていたのだろうと想像できる。
2018/19に全勝優勝を決めたときの陵侑は、そのシーズンが始まるまでは注目を集めるような存在ではなかった。
そんな22歳の若者が、開幕戦で初の表彰台に登り、次戦で初優勝を遂げ、ジャンプ週間前までに4勝を挙げ、その勢いのままにグランドスラムを達成した。
その時のブログに ❞なんだか現実感に乏しく、深夜から未明にかけての観戦だったことも手伝って夢の中の出来事のようにさえ思える❞ と書いた。
初優勝の翌日に2勝目を挙げたときに陵侑は「僕だけじゃなく、みんな戸惑っていると思う」とコメントしたが、あの当時は私自身も、そしておそらく世界中がみんな戸惑っていた。そんな中でのグランドスラムだった。
でも、今回は違う。
夢でも幻でもなく、戸惑いもなく、現実感をもって陵侑は4つの試合を戦っただろうし、我々ファンも夢でも幻でもなく、戸惑いもなく、現実感をもって 4つの試合を堪能した。
グランドスラムこそ逃したが、個人的には3年前よりジャンプ週間総合優勝の満足感に強く浸っている。
おめでとう陵侑! そして、ありがとう!
4HT 総合順位
1 | 小林 陵侑(JPN) | 1162.3pt | - |
2 | M.リンビーク(NOR) | -24.2 | - |
3 | H-E.グランネル(NOR) | -34.1 | - |
4 | K.ガイガー(GER) | -38.7 | 1↑ |
5 | M.アイゼンビヒラー(GER) | -44.7 | 1↓ |
10 | 佐藤 幸椰 (JPN) | -97.6 | 1↓ |
17 | 小林 潤志郎 (JPN) | -285.5 | 5↑ |
28 | 中村 直幹 (JPN) | -453.5 | 12↓ |
32 | 伊東 大貴 (JPN) | -552.4 | 9↓ |
54 | 佐藤 慧一 (JPN) | -950.7 | 5↑ |
ジャンプ週間総合の表彰台は第3戦から変動なく、リンビークが2位、グランネルが3位となった。
佐藤幸椰は、第4戦で惜しくも表彰台を逃したが本来のパフォーマンスに近づいていることは確かだ。
ガルミッシュ-パルテンキルヘンから板を固いものに変えたことが上手く填まったらしい。
ジャンプ週間総合で初のトップ10入り。
小林潤志郎は、ガルミッシュ-パルテンキルヘンでの転倒がもったいなかった。
ただ、調子は上向きで、いつでもトップ10を狙えるような状態にあると思う。
伊東大貴と中村直幹は第4戦は予選落ちしたため総合順位を大きく下げてしまった。
今季コンスタントにポイントを獲り続けてきた中村直幹が、やや調子が下向きにあるように感じられることが気がかり。
佐藤慧一は初戦と第4戦で本戦に進んだが、結局はノーポイント。
昨季のジャンプ週間では総合14位だったことを思うとあまりにも寂しい結果だ。
WC総合でもポイントを獲れたのは2試合のみ。一度日本に帰して調整をする時間を与えてあげた方が良いのではないだろうか。
この日、試合に勝ったフーバーはWC初優勝。
これまで3度の表彰台があるが、逆に「あれっ、それしかなかったっけ?」という印象で、勝てそうで勝てない選手の筆頭ともいえる存在だった感がある。
ジャンプ週間総合争いの当事者たちとは違ってプレッシャーを感じることなく戦える状態にあったことが功を奏しただろうか。
勝利の瞬間にチームメートやライバルたちから祝福を受けたが、その後のインタビューでは目が潤んでいるように見えた。
ラニセク、ヘールに続く今季3人目の初優勝。
前二人が25歳、23歳なのに対してフーバーは29歳。
割と苦労人なのかも。
なお、WC総合ではガイガーが4戦ぶりに表彰台に立ったことで陵侑との差を15pt縮めた。
鳥人たちのツアーはビショフスホーヘンにとどまり、休む間もなく8日に個人戦、9日に団体戦が行われる。