第63回HBCカップジャンプ競技会

二階堂蓮 悔しさをバネにシニア初優勝 女子は伊藤有希がⅤ

2021年1月11日(月・祝)札幌市 大倉山ジャンプ競技場 HS137/K123

女子組(基本ゲート1本目25、2本目24)

1  伊藤 有希(土屋ホームスキー部) 253.9pt
2  丸山 希(明治大学) 228.9pt
3  岩渕 香里(北野建設) 207.8pt

リザルト

男子組(基本ゲート1本目13、2本目13)

1  二階堂 蓮(東海大学) 233.4pt
2  渡部 弘晃(東京美装グループスキー部) 233.3pt
3  伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) 225.9pt

リザルト


これまではノックアウト方式で行われてきたHBCカップ。
今年は他大会と同様に通常の方式での開催となった。

男子組優勝はシニア初優勝となる大学1年生の二階堂蓮。
1988年から91年にかけてワールドカップや世界選手権で活躍した二階堂学さんを父に持つ二階堂は、中学3年生から4年連続ジュニア世界選手権に出場するなど目覚ましい実績を挙げてきた。

中学3年の時に、そのジュニア世界選手権出場のために果たせなかった全国大会優勝を、高校3年時には同学年のライバルたちを倒して果たし、またその年のWC札幌大会では高校生として唯一エントリーされた。

しかし、同学年のライバルたちが次々と実業団入りを決めたにもかかわらず、彼にはどこからも声が掛からなかった。
「僕を選ばずだれを選ぶんだって。ねたましい気持ちが本当にあった」(北海道新聞1月12日)という。

そしてこの日-
二階堂連は、同学年で誰よりも早くシニアで勝利を遂げた。
トップで折り返した1本目は2位の山元豪と0.1pt差。最終リザルトも2位の渡部弘晃と0.1pt差。
接戦を制して表彰台の頂に立った彼の表情はとても晴れやかだった。

女子組

1 伊藤有希(土屋ホームスキー部)
2 丸山 希(明治大学)
3 岩渕 香里(北野建設)
4 岩佐 明香(大林組スキー部)
5 中山 和(下川商業高校)
6 小林 諭果(CHINTAIスキークラブ)

男子組

1 二階堂 蓮(東海大学)
2 渡部 弘晃(東京美装グループスキー部)
3 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部)
4 伊藤 将充(土屋ホームスキー部)
5 栃本 翔平(雪印メグミルクスキー部)
6 山川 太朗(東海大学)

女子優勝は伊藤有希。
前日はコーチリクエストが上手くいかず丸山希に敗れたが、今日は25ptの大差をつけてその借りを返した。

圧巻は1本目。
1段低いゲートから最長不倒となる138.5m。昨年のWCでマーレン・ルンビが出した139.5mのヒルレコードにあと1.0mと迫った。
しかも、19.0ptが5つ並ぶ惚れ惚れするようなテレマークを入れてみせた。

2位の丸山は不思議なジャンプを見せた。
その2本目は、一際高い高度を保ちながら、まるでスローモーションのようにゆっくりとK点を超えていった。例えるなら、映画「マトリックス」のアクションシーンのように。

思いだされるのは、総合優勝を遂げたシーズンの小林陵侑。
あのシーズンの中継では、いつも表示される踏切の速度だけでなくマキシマムのスピードと着地のスピードが表示されていた。
それで見ると、陵侑は上位陣の中にあって着地のスピードが極端に遅かった。より高く遠くへ飛ぶと加速がつくはずなのにだ。
つまり陵侑は、前へ進むスビートではなく、より長く空中に留まることで飛距離を伸ばしていたといえる。

この日の丸山のジャンプは、これに似ているのではないかと。
もっとも、この2本目のジャンプはK点付近ではビュービューと音が聞こえるほど向かい風が強かったので、そのせいもあったとは思う。

ただ、いずれにしても丸山は上手に風をつかんで135.5mまで飛距離を伸ばした。
以前は、フライトの最終盤で着地姿勢に入るのが早くて少し粘りに欠ける印象があったけど、そういう部分が改善されてきたのかも。

2日間で共に3位だった岩渕香里も、かなり戦える状態になってきたと感じさせてくれた。
この日2本ともk点を越えた岩佐明香と、前日のSTVカップでk点を越えた小林諭果の次の課題は、その際にしっかりとテレマークを入れられるようになることか。

表彰式

女子組
女子組
男子組
男子組
男女優勝者

二階堂蓮は、高3のときにインターハイを制している。

  1. 二階堂 蓮(下川商業高校3年)
  2. 竹花 大松(東海大札幌高校3年)
  3. 工藤 漱太(下川商業高校3年)
  4. 小林 龍尚(盛岡中央高校3年)


実業団からの誘いは、前述の通り、インターハイの表彰台の頂に立った二階堂には掛からずに彼がそこで従えた選手たちにのみ掛かった。

二階堂の最大のライバルだった竹花大松。
土屋ホームに入団した大松は、昨日のSTVカップで1本目に2位となり、同学年で最初のシニア初優勝に期待がかかったが、2本目は条件にも恵まれず結果は10位。
今日のHBCカップでは9位だった。

9 竹花 大松(土屋ホームスキー部)

下川商業高校のチームメートだった工藤漱太は雪印メグミルクスキー部に入団。
まだ目立った成績を挙げていないが、下川商業の4年先輩にあたる佐藤慧一もシニア初優勝までに2年半以上掛かっている。焦ることはない。
STVカップは20位。HBCカップは25位。

25 工藤漱太(雪印メグミルクスキー部)

長兄:潤志郎のいる雪印ではなく2番目の兄:陵侑のいる土屋ホームに入団した小林龍尚。
まだまだ粗削りな印象はあるが、磨けば光る原石であると葛西紀明監督に見込まれたのだろう。
一発の強さはあるので、再現性が加われば大化けするかもしれない。
STVカップは22位。HBCカップは18位。

18 小林龍尚(土屋ホームスキー部)

1本目で0.1pt差の2位だった山元豪。
平昌オリンピックの複合代表であり、WCで約70試合もの出場を誇る実績がありながら、今シーズンからスペシャルジャンプに転向してきた。

25歳。今季も複合でWCに派遣される予定だったという。北京五輪代表に選ばれる可能性も高かった。
そういう選手の転向は異例だが、選手生命をかけて臨んだ平昌後のバーンアウト(燃え尽き症候群)からの心機一転が理由だったらしい。

2本目は20番手と失速し結果は14位。しかし、1本目の2位はフロックでは獲れない。
熾烈な争いが繰り広げられている国内組の選手たちにとって、強力なライバルが現れたことは間違いない。


HBCのサイトを見ると『今大会から競技の採点方式をオリンピックやワールドカップと同様に変更、競技方式も2回のジャンプの合計ポイントで順位を競う世界共通ルールを採用した。』とある。

「今大会から…」とあることから、来年以降もノックアウト方式はやらないと読めるが、一方で報道では「新型コロナウイルス禍の今季は、スムーズな競技運営を図り、2回のジャンプの合計得点を競う他大会と同じ方式に変更した」(北海道新聞1月12日)とあり、あくまでもコロナの影響による特例であるようにも読みとれる。

個人的にはHBCカップのノックアウト方式はいろいろと問題があるように思えて好きではない。(その理由は今までさんざん書いてきたので、過去リンクを参照してください)
なので、今後も今回のような普通の運営方式による開催を希望したい。

毎年恒例の成人のお祝い

ソーシャルディスタンスで横に広がって並んだので写真が2枚に分かれてしまった。

  • 鴨田 鮎華(イトイ産業スキーチーム)
  • 池田 龍生(慶応義塾大学)
  • 高橋 佳佑(東海大学)
  • 山中 規暉(東海大学)
  • 藤田 慎之介(東海大学)
  • 山根 和治(日本大学)
  • 中村 愛斗(明治大学)

みんな、おめでとう!


この日の男子組スタートリストの一番最後は、昨日のSTVカップでランクを上げた岩佐勇研。
しかし、勇研は棄権。
理由について場内でも一切説明がなかったので不思議に思っていたら…

翌日の朝刊に「W杯メンバー入り」の報道が。
勇研は、ザコパネ大会からWCチームに合流するためHBCカップのあった日の夜に既に日本を発っていた。
やったぞ勇研!