ピョンチャン オリンピック 2018 女子個人ノーマルヒル

ルンビ圧巻の金 高梨沙羅 銅メダル

2018年2月12日(月) 平昌(KOR)HS109/K98 

Ladies’ Normal Hill Individual

 マーレン・ルンビ(NOR)  264.6pt  105.5m  110.0m
 カタリナ・アルトハウス(GER)  252.6pt  106.5m  106.0m
 高梨 沙羅(クラレ)  243.8pt  103.5m  103.5m
 
4  イリーナ・アバクモワ(OAR)  230.7pt  99.0m  102.0m
5  カリーナ・フォークト(GER)  227.9pt  97.0m  101.5m
6  ダニエラ・イラシュコ-シュトルツ(AUT)  225.9pt  101.5m  99.0m
7  ニカ・クリジュナル(SLO)  223.2pt 101.0m  104.0m
8  ラモーナ・シュトラウプ(GER)  210.5pt  98.5m  98.5m
 
9  伊藤 有希(土屋ホーム)  203.9pt  94.0m  93.0m
12  岩渕 香里(北野建設)  188.3pt  93.5m  89.0m
17  勢藤 優花(北海道ハイテクアスリートクラブ)  172.0pt  93.0m  89.0m

オフィシャル リザルト


 

これが最適解だったように思える。
ルンビ金、アルトハウス銀、そして高梨沙羅が銅。
沙羅が「金メダルを取る器ではない」のかどうかは本人じゃないからわからない。
でも、この試合を迎えるにあたって、金メダルに一番近い位置にいたのが彼女ではなかったことは確かだと思う。
今季WCではここまでルンビが7勝、アルトハウスが2勝、沙羅に勝ち星は無い。
現時点のWCスタンディングの順がそのままこの日の結果となった。
最も収まりのいい結果に収まったというのが正直な感想だ。

 

ルンビとアルトハウスは素晴らしかった。
特に2本目。条件も味方したとはいえ、今季ここまでの集大成と言える姿がそこにあった。
WCで勝つために、総合優勝するために、そして五輪で金を獲るためには、選手個々の力だけではなく、コーチその他のサポートスタッフの力、それを動かし支える連盟などの組織力、さらにはマテリアルの開発能力などがすべて噛み合った「総合力」が必要。
ドイツとノルウェーはそこが長けていたように思う。

 

沙羅も本当に素晴らしかった。
1本目を終えてトップのルンビとの差は5.1pt。
思いもよらない僅差。この時、金メダルは確かに見えていた。
そして2本目。
そこで見せたのは、今まで見た沙羅のどのジャンプよりも素晴らしい、全身全霊を傾けた至高の逸品だった。

 

最終的にはルンビとの差は20.8ptまで開いた。今季WC10戦のルンビとの差の平均が20.1pt。結局この差を埋めることはできなかった。
でも、そんなことはどうでもいい。
見事に銅メダルに輝いた。本当に良かった。本当におめでとう。

 

翌日の会見では、憑き物が落ちたような穏やかな表情を見せた沙羅。
ピョンチャンでメダルを得て、今ようやく2014ソチ五輪を終わらせることができたんだと思う。

 

全体として、オリンピックにふさわしいハイレベルで見ごたえのあるゲームだった。
メダルの3人はもちろんのこと、フォークトとイラシュコはさすがの勝負強さを見せたし、アバクモワとクリジュナルはアグレッシブなパフォーマンスで試合を彩った。
シュトラウプとザイファルトはドイツの層の厚さを証明したし、ヘンドリクソンにはよくぞここまで立て直してきたと感心させられた。
一方で、男子NHほどではなかったにせよ、この試合でもデタラメな風が吹き荒れ、ヘルツル、クリネツ等の上位争いをすると目されていた選手たちでさえも容赦なくその餌食とされた。

 

初出場となった岩渕香里も条件に恵まれなかった者の一人。
4年前は、1年ぶりに怪我から復帰したがソチ五輪には間に合わなかった。
今季はここまで好調だっただけに、本人の口からもメダルという言葉も出ていた。
完全燃焼とは行かなかったのかも知れないが気迫は十分に伝わった。

 

同じく初出場となった勢藤優花は、逆に今季は深い悩みの境地に陥った時期もあった。
現地でもトレーニングジャンプでしっくりいかず苦しんでいたようだが、それらを克服し「ここにきて一番良いジャンプができた」
本来は入賞を狙える力を持った選手。おっとりとしてはいるが、五輪を経験して欲も出てきたようだ。

 

伊藤有希はデタラメな風により、思い描いていたプランを完全に奪われてしまった。
全選手全飛躍75本中、数値上の追い風を受けたフライトは8本。
不運なことに有希はそのうちの2本を引いてしまった。

 

風が良ければメダルを獲れたなどというつもりはない。
ジャンプ競技に風のアタリ・ハズレは付き物。
でも、せめてもう少し公平な条件で勝負させてあげたかった。
4年間待ち望んだ舞台で、これではあまりにも残酷だ。

 

有希が一切の「言い訳」をしなかったとして称賛する声が上がっているらしい。
沙羅のメダル決定の瞬間に真っ先に駆け寄り涙した姿。試合後のインタビューでも4年間の沙羅の苦労を口にするも、自分の苦しみは口にせず大粒の涙を流した姿。
いずれも最大限の賛辞に値する。
でも・・・

 

「風に恵まれなかった」と一言いわせてあげられればどんなにか彼女の気持ちが楽だったろうとも思える。
その一言は果たして「言い訳」なのか? 
その一言を発しないことを美徳とする価値観こそが、何よりも、状況説明を「言い訳」と捉えられてしまう偏ったものの見方こそが、この4年間彼女たちを苦しめてきたものの正体のような気がしてならない。

 

 

2日後、4人は笑顔で帰国した。
2014/15シーズンから不動のメンバとして世界を転戦してきた4人だ。
首にかけられたメダルを指して沙羅は言った。
「みんなで獲ったメダル」だと。