小林陵侑 圧巻のパフォーマンスで世界を驚かす
2018年11月25日(日) ルカ(FIN)HS142/K120
4th World Cup Competition
1 | 小林 陵侑(土屋ホームスキー部) | 310.4pt | 140.0m | 147.5m |
2 | アンドレアス・ヴェリンガー(GER) | 288.4pt | 136.0m | 145.5m |
3 | カミル・ストッフ(POL) | 285.4pt | 136.5m | 144.0m |
18 | 小林 潤志郎(雪印メグミルクスキー部) | 246.5pt | 123.5m | 133.0m |
23 | 中村 直幹(東海大学) | 238.7pt | 129.5m | 123.0m |
32 | 伊東 大貴(雪印メグミルクスキー部) | 108.9pt | 121.5m | |
38 | 葛西 紀明(土屋ホームスキー部) | 105.6pt | 121.5m | |
竹内 択(北野建設) | 予選落ち |
小林陵侑が、初優勝からわずか1日で2勝目を挙げた。
凄い試合だった。
平昌五輪の二人のメダリストと日本の若武者が演じた胸を締め付けられるようなスリリングな優勝争いは、めったに見ることのできない中々の名勝負だったように思う。
まずは、1本目の陵侑が凄かった。
イエロービブを纏ったこの50人目のジャンパーは、文句のつけようのない完璧なジャンプを事も無げにやってのけたようにも見え、2位ヴェリンカーに9.0pt、3位ストッフに9.1ptの差をつけトップで折り返した。
そして2本目。
向かい風が強まる中、まずはストッフが144.0mの大飛躍。着地も決まった。
目の前でこれを見せつけられたヴェリンガーは、しかし臆することなく145.5mを飛び、これまたバッチリと着地を決めて見せた。
昨季終盤は不調に泣いたヴェリンガーは、久々に魅せた鬼気迫るようなパフォーマンスでストッフの追撃を引き離し、カレントリーダーとしてラストジャンパーを待つこととなった。
すると、ここで宮平ヘッドコーチがリクエストでゲートを2段下げるという決断を下したからさぁたいへん。
実は陵侑は予選でもゲートを1段下げている。下げずに飛んでいれば予選トップを狙えただろうが、リスクを冒してまでそれを狙う必要はない。結果18位での予選通過となったが、ちょっと気になったのは95%に1.5m足りていなかったこと。
そのことが頭にあった私は、予選とは条件も違うので一概に比較はできないとはいえ2段も下げるのはかなりリスキーなのではと、正直ちょっとハラハラしながら見ていたのだけれど…
おみそれしました。
なんと、ヒルレコードに並ぶ147.5m!
この状況下で、ヴェリンガーよりも2.0m、ストッフよりも3.5mも飛距離を伸ばしてみせるとは。
しかもこれ、最後は両手を広げて自ら降りているよね。
数値上の風はほぼ一緒なのに、ゲートを2段も下げて、それなのに飛びすぎて、なので途中で止めて、それでもストッフとヴェリンガーの渾身の大飛躍を上回ってしまうという…
終わってみれば、2位ヴェリンガーに22.0ptもの大差をつけての圧勝劇。
今季、いくつかの勝利は挙げられるとは思っていたけれど、まさかこんな凄まじい勝ち方をするなんて。
「僕だけじゃなく、みんな戸惑っていると思う」と試合後の陵侑。
はい。確かに戸惑っています。
この夏にアプローチに関して「感覚を変えた」ことが功を奏しているらしい。
ただ、それ以前から陵侑は何度かとんでもないジャンプを見せてきた。
その二本目は100メートルラインを越えてもまだ通常の倍ほどもあるのではないかとさえ思える高度を保っており、その異常さに見ていて背筋に冷たいものが走ったほど。
そこから落ちていくどころか、風に煽られ更に高度が上がったようにすら見え、陵侑は何とか両手でバランスを取って必死に136.5m地点に“落として”みせたが、そうしなければあのまま150mを超えていても不思議ではないくらいの尋常ならざるジャンプだった。
第14回札幌市長杯大倉山サマージャンプ大会(2013.8.4)
試技でその突風に当たった小林陵侑は、とんでもない高さを飛んできた。
元々フライトの高い選手ではあるけれど、それにしたって尋常じゃない高さ。
途中でヤバいと思ったか、両手を横に広げてブレーキを掛けようとしたけれど、それでも全然高度が下がらない。
で、そのまま148.0mまで飛んでしまい着地で転倒。陵侑には、岩手盛岡中央高校時の2013大倉山サマーでも驚かされたことがある。
今回は、この時をはるかに凌駕した。
いや、ホント、こんな異常とも言える高さのジャンプ、今まで見たことない。札幌スキー連盟会長杯 兼 第29回TVh杯ジャンプ大会(2018.2.24)
元々、遠くに飛ぶ為の天賦の才のようなものを持ち合わせてはいたんだろうと思う。
でも、その才能を自分でも上手くコントロールすることができていなかったんじゃないのかな。
でも、この夏にそれをコントロールする術を身に着けた。
本人は「感覚を変えた」と言っているようだけれど、「言っちゃったらみんな強くなる」として口外していないところをみると、実際は感覚を変えたというよりはもっとスキル的な部分を変えたんじゃないかと思う。
誰にも教えなくていいから、葛西監督にだけはそっと教えてあげて欲しい。